「プレゼンが苦手」と嘆く前に。人前で話すことは、あなたが『組織の歯車』を卒業する第一歩

brown wooden door with locks マネジメント
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プロローグ:「生殺与奪の権を他人に握らせるな」

「生殺与奪(せいさつよだつ)の権を他人に握らせるな」 大ヒット漫画『鬼滅の刃』に登場する冨岡義勇の有名なセリフ。これは決して漫画の中だけのセリフではありません。私たちが生きる現代の職場において、あまりにもリアルで、恐ろしいほど本質を突いた言葉です。

私の職場には、以前記事にもしましたが「残念な上司」がいます。(まだ読んでいない方はこちらの記事)

その人は、裏ではとにかくトップのマネジメントに対する不満や愚痴をこぼしています。しかし、いざトップを目の前にするとヘコヘコと頭を下げ、諫言(かんげん)することも、より良くするための提言をすることも一切ありません。

当然、何でも「はい」と聞くイエスマンですから、私のように波風を立てる人間に比べれば、トップからは信頼されている(悪く言えば都合よく使われている)のでしょう。しかし、その上司はたまにメンタルを崩して休みがちになります。 それなのに、決してこの職場を離れようとはしません。

私はいつも不思議に思っていました。「そこまでして、この職場やポストにしがみついて何をしたいのだろう?」と。

答えは残酷なほどシンプルです。おそらく、ここでしか生きる場所を見出せないのです。 つまり、「自分の生き死にの権利(生殺与奪の権)を、職場やトップに完全に握られてしまっている状態」なのです。

これほど不幸なことはありません。しかし、周りをよく見渡してみると、医療・介護の現場に限らず、そんな風に「不満を言いながら組織に依存しきっている人」が大半を占めている気がします。

もし、あなたが今これを読んで思い当たる節があり、「なんとかこの依存状態から抜け出したい」「もっと自律して働きたい」と思っているなら、ぜひこの後の話を読んでみてください。 なにも行動しなければ、後悔を抱えたまま定年を迎えることになります。

組織の歯車を抜け出す第一歩、それが「プレゼン」

組織に依存しない「自律した個」になるための最初のステップ。それは、「早いうちからプレゼン能力を鍛えること」です。

管理職になると、人前で話す機会が嫌でも増えます。 「プレゼンが苦手」「できれば人前で話したくない」と嘆く人は多いですが、それは非常にもったいないことです。

多くの管理職は、プレゼンを「上層部や周囲から査定される場」だと思い込んでいます。だから、失敗を恐れて過度に緊張してしまうのです。 しかし、それは違います。プレゼンとは、「自分の考え」を相手の脳にインストールする「自己表現の場」に他なりません。

組織から言われたことをただこなすだけの「歯車」であれば、自分の意見をプレゼンする必要などありません。しかし、自律して組織をより良く動かそうとする人間には、自分の考えを言葉にして伝える「表現力」が絶対に不可欠なのです。

では、あなたにしかできない表現を最大限に引き出し、聴衆を動かすための具体的なハック(手順)を4つのステップでお伝えします。

ステップ1:マインドマイスターで脳内をすべて出し切る

プレゼンを作ろうとして、いきなりPowerPointの真っ白な画面を開いてフリーズしていませんか? それは地図を持たずに樹海に入るようなものです。

まず初めにやるべきことは、「マインドマイスター」などのツールを使って、自分の脳内にあるものをすべてPC上に出し切る作業です。マインドマイスターについてはこちらの記事を

この段階では、綺麗に系統立てる必要はありません。わかりやすさも無視して構いません。とにかく思いつく限りのアイデアや伝えたいことを、すべて出し切ってください。

人間の脳というものは不思議なもので、頭の中にあるうちはモヤモヤとこんらがっている情報も、一度画面や紙にアウトプットして「視覚化」してみると、自然と構成や輪郭が見えてきたり、足りない要素や矛盾点に気づいたりするものです。 全部出し切った後で、「何が足りないのか」「どこを組み合わせれば発展するのか」を修正していけばいいのです。

ステップ2:自意識を捨てる「マインドセット」

準備の段階で、マインドセット(心の持ち方)を根底から変えておきましょう。緊張を解きほぐす3つの考え方があります。

① 誰もあなたの「粗(あら)」など見ていない 冷酷な事実をお伝えします。聴衆は、あなたのプレゼンが上手いか下手かなんて、大して気にしていません。彼らが注目しているのはあなたの滑舌の良さではなく、「この話は、自分にとってメリットがあるか?」だけです。

② 「プレゼン」は「プレゼント」である 元日本マイクロソフトの澤円さんは、「プレゼンはプレゼント(贈り物)だ」と言っています。「自分を良く見せたい」「失敗して恥をかきたくない」という自意識(エゴ)を捨て、「聴衆の悩みを解決する価値を届ける」というギバーの精神に切り替えてください。 「自分を良く見せよう」としている人の言葉は、なぜか相手の心に響きません。エゴを捨てた瞬間、自律した個の本当のプレゼンが始まります。

③ 自分への期待値を上げすぎない 元ゴールドマンサックスの投資部門のマネージング・ディレクターとして日本共同統括を務めた田中渓さんの言葉をお借りしますが、人間は自分への期待値を上げすぎると、結果がそこそこ良くても「成功体験」として実感できず、継続できなくなります。 最初は「まあ、言いたいことの半分が伝われば御の字だ」くらいに期待値を下げておきましょう。そこそこできたら脳の報酬系が働き、「次もやってみよう」と再チャレンジしやすくなります。これはあらゆる業務に応用できる考え方で私もこの考え方をするようになってからはいろんなことへチャレンジするハードルが下がりました。

ステップ3:「2:8の法則」で時間の支配権を奪い取る

プレゼンの準備を、なぜ締切ギリギリまで焦ってやってしまうのでしょうか? それは、「完璧なものを作らなければならない」というバイアスがかかり、思考が停止しているからです。

ここで使うのが、「締切までの日数 × 0.2」の法則です。

例えば、締切まで10日あるなら、その2割である「2日後」を仮の締切に設定し、そこまで一気に駆け抜けて8割の完成度のものを作ってしまいます。 この「強制的な締め切り」を作ることで、時間に追われるのではなく、時間を支配するのです。

時間が余れば、余裕を持って本番に臨むことができます。この「余裕」こそが、自律の証拠です。正直なところ、これができているスタッフを私はほとんど見たことがありません。やれば一気に上位に食い込めます。

マインドマイスターでまとめた思考をスライドにする際、デザインは下手でも構いません。ただし、「1つのスライドには、必ず自分の思考を表すメッセージを1つだけ含ませる」こと。そして、そのスライドを説明し終える時に、必ずそのメッセージを口頭で念押ししてください。それだけで確実に聴衆の脳にあなたの思考をインストールしやすくなります。

ステップ4:あとは「5回の素読」でアドリブ力を生む

スライドがある程度(完璧でなくてOK)完成したら、本番のつもりで「5回」読み通して練習してください。5回に科学的な根拠はなくて、自分の経験上です。ちなみに朝私は通勤の車内で、アプリを使って英会話のトレーニングを40分ほど毎日行っています。そのアプリでは英文が出てきてそれをスピーチてアプリに判断してもらうものなのですが、「こんな難しい長文話せないよ」、と感じる問題が出たとしても、5回くらい繰り返すとなんとなく口が慣れてきて曲がりなりにも話せるようになるという経験からです。

5回も声に出して話せば、大体の内容は頭に入り、口が慣れてきます。この「慣れ」が出てくると、本番でトラブルが起きてもアドリブが効くようになります。まずはここまで持っていきましょう。

また、5回読み通していると、「スラスラ話せるスライド」と「なぜか毎回つっかえるスライド」が明確に分かれてきます。 後者の場合、何かが間違っています。「知識が足りていないのか?」「伝えたいことが自分でも明確になっていないのか?」と自己アセスメントを行いましょう。いっそ、そのスライド自体を削除してしまうのも立派な修正です。

なぜプレゼンを鍛えるのか?「ポータブルスキル」という最強の武器

私がなぜここまでプレゼン能力の向上を勧めるのか。 それは、自分の考えを明確にし、言語化し、他者に伝えるという経験が、組織を生き抜く上で最強の「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」であり、かつ40代からにかけて必要不可欠なスキルだと思っているからです。自分の気持ちを他者にうまく伝えることができないというのは仕事においてかなりのハンデになります。

この経験を積まないまま30代、40代を迎えてしまう人は驚くほど多いです。私は院内や外部の学会など、年に1回は必ずプレゼンする機会を意図的に作ってきました(先輩に引っ張り出されたことも多々ありますが笑)。

このポータブルスキルは、20代〜30代のうちはあまり目立たないかもしれません。しかし、役職がつき、組織のしがらみが増える40代になった時、閃光のような眩い輝きを放ち始めます。これは決して誰にも奪われることのない、あなたの中にしか存在しない絶対的な価値です。

エピローグ:自分の「市場価値」を常に把握しておけ

さて、ここまで準備をして、自律した個として論理的にプレゼンをしたとしましょう。 それでも、悲しいことに組織が全く聞く耳を持たない可能性も大いにあります。

もしそうなったなら、自分を責める必要はありません。それはあなたのプレゼン技術のせいではなく、明確に「組織の限界」です。

その時に備えて、自分の市場価値を客観的に測っておく(エージェントに登録しておく)という「自律のための防具」が絶対に必要になります。

力のない人間が辞めても、組織は痛くも痒くもありません。そうならないために、まずはプレゼン力をはじめとする「個の力」をつけるのです。プレゼンは才能ではなく、ただの練習です。今の職場で自律的に表現する努力をし、それでも無理なら、そのスキルを引っ提げて次の戦場へ行けばいいだけの話です。

一つの職場に依存していると、その環境や人間関係という強烈な「バイアス」がかかった価値でしか自分を見ることができなくなります。 そうではなく、「一般社会(市場)の中で、自分は今どんな立ち位置で、いくらの価値(値段)があるのか?」を常に把握しておくこと。

自分に他でも通用する価値があると知って初めて、今の職場に居続けることのメリットとデメリットを、冷静に「天秤」にかけられるのです。 自分の市場価値を確認し、「いつでも動ける」という絶対的な自信を持って、明日のプレゼン、そして日々の業務に臨んでほしいと思います。

その自信こそが、生殺与奪の権を取り戻し、今の職場であなたを最も自由にする武器になるのだから。


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