今日は、管理職の「忙しい」をハックする話をしたいと思います。
タイトルは、「忙しい」は無能の証明。
私は部下のために、あえて暇そうに見せるようにしています。これは単なるサボりではなく、科学的な理由に基づく戦略なのです。
「忙しそうな上司」は組織のボトルネック
同僚のリーダーAは、毎日朝早く来て夜遅くまで働き、すべての会議で発言し、書類もその日のうちに片づける人がいます。休日出勤もいとわず、常に全力投球です。
一見すると頑張り屋な理想的なリーダーに見えるかもしれませんが、その部署ではなぜかスタッフのミスや不平不満が多く、課題が解決しない状態が数年続いていました。
一方の私は、あえてデスクでは「余裕がある風」にしています。多少の演技も入っています。
なぜなら、部下に「忙しそうで話しかけづらい」と思われた瞬間、管理職としての機能を失うからです。忙しくてピリピリしている上司と時間的に余裕がありそうな上司、あなたならどちらに相談を持ち掛けますか?
忙しそうにしていると、現場の不具合や小さな“違和感(バグ)”が私のところに届かなくなってしまうのです。
全力を出すと、組織は壊れる
ある救急病院の話です。
3室ある手術室が常にフル稼働していましたが、救急患者が来るたびに予定が崩壊し、現場は混乱していたそうです。
そこで責任者は、「一つの手術室を常に空けておく」という決断をしました。
一見非効率に見えますが、結果は逆でした。緊急対応がスムーズになり、全体の回転率が劇的に上がったのです。
これは「待ち行列理論」で説明がつきます。稼働率を100%にすると待ち時間は無限大になる。
つまり、ゆとり(Slack) がなければ、組織は変化への耐性を失います。
トム・デ・マルコの著書『Slack』にも詳しく書かれていますが、効率だけを追う組織はやがて硬直します。車の流れも同じ。高速道路が車で100%詰まっていれば、誰も動けません。余白(車間距離) があるからこそ、車線変更しながら自由度も生まれスムーズに流れるのです。
締めつければミスは増える
ダニエル・コイル著『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(かんき出版)から、アメリカ空軍のミサイル発射チームの話を紹介します。
ミサイル発射担当チーム「ミサイラー」は750人の男女で構成されています。管理するミサイルの威力は広島原発の20倍の威力で、地球上どこにでも30分以内に到着するという危険極まりないもの。それを管理する危険極まりない仕事ですから、完全無欠を求めるあまり、上層部は次々と厳しい規則を加えました。その結果どうなったでしょう。
なんと現場では不正が横行し、隠蔽が常態化しました。
その原因は「恐怖」にあります。過度なプレッシャーがミサイラーたちの視野を狭め、心理的安全性を失わせたのです。余裕をなくした組織では、誰も異常を報告しなくなります。これは最も危険な状態なのです。
私の職場には規則を厳格に運用するリーダーBもいます。彼は、部下のミスに対して人前であろうと厳しく叱責し、ミスを再発しないために更にマニュアルを作ります。その結果、ミスが減るどころか最も多いのがその部署。細かく管理するほど、部下は萎縮し、本質的な改善が遠のいてしまうのです。これは読者の方々の周りにも同じような現象が起こっているのではないでしょうか。
サボりは「チームを守る仕事」
私は臨床も事務も、常に 80%の稼働 に抑えています。
残りの20%は、部下が「ちょっといいですか」と声をかけてこられる“空きベッド”です。
全力型のリーダーAは常に100%稼働で、トラブル対応が後回しになってしまい、結果問題が大きくなってからしか動けません。
私は、意識的に“サボる”ことで、いつでも柔軟に動ける状態を保っています。
「いいよ、こっちを調整するね」と言える余白が、チームの安全装置 になるのです。
本気の「ゆとり」が組織を救う
サボることは決して悪ではありません。むしろ、部下や患者へのリスペクトの形です。
全力で働くふりをして自分を正当化するよりも、ゆとりを確保し、他者のために動ける状態を保つことが、本当のプロフェッショナリズムだと思います。
人間の脳のリソースは限界があります。
100%を出し続けると、「緊急だが重要ではないこと」に脳を占拠され、「重要だが緊急ではないこと(組織の未来や部下の育成)」を考える余白が消えてしまいます。
先ほど述べたように、私の病院にはリーダーAとリーダーBという管理者がいます。
二人の「全力型」と「厳格型」は他部署からいつも評判に上がりますが、必ず「忙しそう」という枕詞がつきます。私の名前はあまり出ません(それはそれで少し納得がいかないのですが笑)。
でも、他部署が困ったときに助けを求めにくるのは必ず私のところです(本当に暇だと思われている可能性もゼロではありません涙)。
暇そうに見せることは、上司が果たすべき高度な業務のひとつ。
これこそが、チームを守り導くための戦略なのです。
シッパイマン流:サボりの3原則(ハック術)
暇そうにする意味は分かったから、具体的にはどうすればいい?という声が聞こえてきたので、実際に私が実践している「余白」の作り方を紹介します。
① 臨床の「定型化(マニュアル化)」:
多くの症例は、熟練のPTなら「脳を使わず」とも高いクオリティを出せるはずです。そこは「型」をしっかり使いましょう。例えば動作分析のフローチャートをあらかじめ作っておき、そこに自分を乗せていく。それだけで脳のCPUをアイドリング状態に保つことができます。それをベースに関わることでイレギュラー(患者の急な体調変化、痛みの増悪、他スタッフのアクシデント対応など)にも対応しやすくなります。
② 事務作業の「後出しジャンケン」:
早くやるから余計な仕事が増えることもあります。緊急度も重要度も低いタスクはギリギリまで待てば、方針が変わって「やらなくて良くなる」仕事も少なくありません。タスクの仕分け(緊急度・重要度)もとても大切です。
③ 「一点集中」の瞬発力:
普段サボっているからこそ、重要な課題(難治症例、経営層へのプレゼン)に、人の3倍くらいの熱量を一気に注ぎ込むことができます。いつもダラダラしていていいわけではありません。ここぞというときに全集中して結果を出す。それこそが真のリーダーの姿なのです。初めはできないかもしれないですが、そもそも余力がなければ全力投球さえできないわけですから、怖がらずに「余白」を作ってみてください。意外と見える景色が変わって、自分が何をすべきかが鮮明になります。
終わりに
自動車のハンドルには、必ず「あそび」があります。 もし「あそび」が全くなかったら、少しの路面の凹凸で車体は激しく揺れ、運転手は疲弊し、いずれ事故を起こすでしょう。私たちが作るべき「余白」は、決して怠慢ではありません。 救急病院が、いつ来るかわからない急患のために「空きベッド」を死守するように、管理職である私たちも、自分のリソースの2割を「空席」にしておく義務があるのです。
正直に言えば、「忙しいふり」をする方が楽です。誰からも文句を言われないし、頑張っている自分に酔えるからです。逆に「ヒマなふり」をするのはとても勇気がいります。「あの人は楽をしている」という周囲の誤解を、一人で引き受けなければならないからです。
それでも、私はヒマなふりを続けます。あなたが作ったその「空白」こそが、部下が迷った時に逃げ込めるシェルターになり、トラブルが起きた時の滑走路になるのです。
あなたの価値は、どれだけ動いたか(稼働率)ではなく、「いざという時に、どれだけ部下のために動けるか(予備力)」で決まるのです。
さあ、明日からデスクで涼しい顔をして座ってみましょう。「忙しさを隠し、最高の余白を演じる」 そんな、管理職にしかできない高度な業務を、一緒に始めましょう。
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