【2026年1月25日 追記:この記事は「デバッグ(修正)」済みです】
立ち上げや新しいプロジェクトに携わるとき、私たちは「成功させるぞ」という気持ちで胸を躍らせます。
しかしその裏で、ついてくるスタッフたちは不安や戸惑いを抱えていることが多い――。
今日は、過去に私が経験した“大量離職”という苦い出来事を通じて、そこから学んだ「人と向き合う姿勢」について書いてみたいと思います。
きっかけとなった一言
数年前、私が深く尊敬する大学の先生からこんな話を聞いたことがあります。
その先生は理学療法士の養成校で教鞭をとっており、ある学生を退学にしたことがあったそうです。 その学生は理学療法士を志して入学したわけではなく、親の勧めでなんとなく進学したタイプだったそうです。学業にも熱が入らず、実習もうまくいかずに悩んでいました。先生はこう判断したそうです。
「このまま無理に理学療法士の道を歩ませるより、本人が本当にやりたいことを探す方が幸せではないか」。
教育機関にとって、学生を減らすことは決して利益にはなりません。それにも関わらず、その先生が学生を退学させたのは、『理学療法士にする』ことより『その人の人生を最大化する』ことを優先したからに他なりません。誰かの人生を本気で考えて行動する姿に、私は衝撃を受けました。 「ああ、これが本当の“人を思う仕事”なんだ」と。それに比べ、当時の私はどうだったか。 あのときの私は、誰を見ていたのか。当時の私は『スタッフを引き留める(組織の都合)』ばかりを考え、彼らの『人生のベネフィット』を完全に無視していました。
立ち上げの渦中で、人が次々と辞めていく現実に焦りながらも、正直、自分の病院を「潤わせること」ばかりを考えていました。
「なんとか残って働いてほしい」。
そんな思いは、一見チームを思っているようでいて、実は自分本位な発想でした。スタッフの一人ひとりが、何を感じ、何に不安を抱えているのかを知ろうともしなかったのが事実です。
今振り返れば、あのときの私には“人を育てる”視点が欠けていました。これがバグの正体です。
立ち上げの熱と、スタッフの不安
新しいプロジェクトが始まるとき、上に立つ者は「理想を形にするんだ!」と意気込みます。しかし、その熱量は往々にしてチームの現場とは温度差があります。上司が鼻息荒く「日本一の病院にするぞ!」と叫んでも、部下から見れば「また理想論が始まった」という冷めた反応。彼らは未知の環境に飛び込む不安でいっぱいなのです。
「自分はちゃんとやっていけるのか」
「この職場は安全だろうか」
そんな不安を抱えたまま、日々の業務に立ち向かっていたのだと思います。当時の私は、それに気づけませんでした。 いや、正確にいうと気づかないふりをしていただけかもしれません。もしかしたら、自分が携わっているプロジェクトだけに、その違和感を見て見ないふりをしていたのかもしれません。「ついてこい」という思いだけが先行し、結果として多くのスタッフを失いました。もし過去の自分にアドバイスできるなら、一言こう言います。
「一人ひとりと、ちゃんと話せ」。
立ち上げ期ほど、スタッフとの“対話の時間”が何より大切です。
「どんなことが不安か」
「今、何に困っているのか」
それを丁寧に聞き出すことが、チームを育てる第一歩です。この教訓から、私は今、定期的にスタッフと短時間の面談を行うようにしています。 1人あたり10分でも構いません。相手が口にしたいことをすべて言い切るまで、こちらからは口を挟まない。
“最後まで聞く”ことを意識するようになりました。
「相談=解決」ではない
若い管理職を見ていると、面談でついアドバイスを急ぎたくなる人が多いと感じます。「何とかしてあげなきゃ」「問題を解決しなきゃ」と思う真面目さゆえでしょう。でも、話を途中で遮ってしまうと、相手の心はそれだけで閉じてしまいます。「最後まで聞いてもらえなかった」と感じた瞬間、相手の耳はシャットアウトしてしまうのです。私の持論ですが、アドバイスをする前に、まずはすべて吐き出させること。 頭と心を空っぽにしてもらってから、初めてこちらの言葉が届くようになります。
「解決してほしいわけじゃない」という真実
お笑いコンビ・チュートリアルの徳井さんが「服選びの相談に正解はない」と話していたことがあります。
女性に「AとB、どっちの服がいい?」と聞かれて、どちらを選んでも不機嫌になる――。 どっちでもいいんじゃない、なんて言語道断。
実は答えを求めているのではなく、「一緒に悩んでほしい」という気持ちがあるそうです。決して口にはしてくれませんが涙。この辺を汲み取れる男性はおそらくモテるのだろうと思います。確かに、妻から仕事のことや家庭のことで相談されることがありますが、その都度、良かれと思って「それはこうだからこうなっているんじゃない?」とか「こうしたらどう?」などと自分の意見を伝えていました。結果は、毎回変な雰囲気になって終わる、日によってはケンカに発展することさえありました。もっと早く徳井さんの言葉を知っておきたかった。多分、妻もどうすればいいかなんてわかっている、わかっているけど話を聞いて共感して、一緒に悩んでほしかったのだろうと今は分かります。
これは職場でも同じです。
特に不安を抱えている若手スタッフは、答えよりも「共感」を求めています。
「それ、難しいよね」「私も同じ立場なら迷うよ」
そんな一言が、アドバイス以上に心を支えることがあります。一緒に悩んでくれる人がいる。 それだけで、前に進む勇気が少し湧いてくるのだと思います。
アドバイスが必要な場面もある
もちろん、管理職としてアドバイスを避けるわけではありません。
医療職の現場では、専門的判断が求められる場も多い。
「○○の患者さんにはどう対応しますか?」
「おすすめの参考書はありますか?」
そんな明確な質問には、経験に基づいてしっかり答える。大切なのは“聞くべきときは聞く”“話すべきときは話す”というバランスです。 面談の場は、アドバイスよりも「寄り添う時間」。 相談の場では、専門家としての「助言の時間」。 その線引きを意識するようにしています。私の周りでは、このバランスがどちらかに偏ってしまう管理職が多い気がします。
「話を聞く」ことの力
忙しい現場だからこそ、「面談の時間なんて取れない」と思う方もいるでしょう。 でも、1週間に5分でも構いません。1か月に15分でもいい。その短い時間が、スタッフの安心感につながるのです。人は、アドバイスのみを求めているわけではない。ただ、自分の気持ちを理解してほしいのです。「あなたの不安をちゃんと聞いているよ」と伝えるだけで、心の距離は驚くほど縮まります。
【大量離職】のシステム・デバッグ
かつての私は、「もっと話を聞けばよかった」と情緒的な反省を繰り返していました。しかし、それでは何も解決しません。大量離職の真因は、私のコミュニケーション不足ではなく、「この組織に留まるメリット」をシステムとして提示できなかった設計ミスにあります。
1. 「共感」をデータ収集の手段(モニタリング)と定義せよ
リハ職の皆さんなら分かるはずです。患者が「痛い」と言ったとき、共感するのは治療の第一歩ですが、共感だけで終えたらそれは「単なるお喋り」です。
- 感情の受容(共感): 「それは辛かったね」と受け止めることで、部下の脳の防衛本能(扁桃体)を鎮め、本音(データ)を引き出す。
- 因果関係の特定: なぜその不安が生じているのか?背後にある「不利益(バグ)」を特定する。
共感で終わる管理職は「優しい無能」です。プロの管理職は、聞き出した不安を**「解決すべき課題(チケット)」**として即座に起票し、システムを書き換えます。
2. 「二要因理論」で離職を分析する
ハーズバーグの「二要因理論」を用いれば、当時の私のミスは明白です。
| 要因 | 内容 | 当時の私の状態 |
| 衛生要因(不満) | 人間関係、給与、労働条件 | 「不満を聞く」だけで、根本的な解決(権限行使)をしていなかった。 |
| 動機付け要因(満足) | 達成、承認、成長、責任 | 「この組織にいれば人生が良くなる」という圧倒的ベネフィットを提示できていなかった。 |

3. コンフリクト(衝突)を「診断」し、適切に処置せよ
部下からの「配置を変えてほしい」「あの人と合わない」という相談に対し、私は「本人の成長のために耐えさせるべきか?」と迷っていました。しかし、今はこう診断します。
コンフリクトの診断基準表
| 種類 | 内容 | 管理職の処置 |
| タスク・コンフリクト | 目的や手段のための議論 | 介入(リハ継続): 解決の技術を教え、成長の糧にする。 |
| リレーションシップ・コンフリクト | 感情のぶつけ合い、人格否定 | 免荷(即座に隔離): パフォーマンスを守るため、権限で切り離す。 |
骨折している足でスクワットをさせてはいけません。 まずは免荷(配置転換)し、組織という治療環境を整えること。それが、大量離職から学んだ私の「冷徹な優しさ」です。
結び:管理職の「寄り添い」を再定義する
管理職に求められる究極の寄り添いとは、部下と一緒に涙を流すことではありません。
「部下が消耗している無駄な業務や人間関係を、自分の権限で廃止すること」です。
- 「人間関係が辛い」→ 即座に配置を変更し、パフォーマンスを確保する。
- 「将来が見えない」→ 昇給条件を可視化し、キャリアプランを処方する。
かつての私は、痛みに苦しむ患者さんに「大変ですね」と声をかけ続けるだけで、治療をしないセラピストでした。今の私は、共感というセンサーで現場の「バグ」を見つけ、ベネフィットという処方箋で組織を治していきます。
それが、リーダーとして、そしてプロの理学療法士として、私が果たすべき責任だと思っています。
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