だからお前のリハビリは効かない。若手PTが絶望的に勘違いしている「臨床推論」の罠

いつもはマネジメントや組織論の話ばかりしていますが、私はしがない管理職である前に、20年以上のキャリアを持つ理学療法士(PT)です。たまには臨床家として、伸び悩む若手セラピスト向けに、少し耳の痛い「臨床推論」の本質についてお話ししようと思います。

若手のカルテやケース発表を見ていると、実につまらないエラーをよく目にします。関節可動域(ROM)は○度、筋力(MMT)は○、感覚検査は何点……と、個別の評価は実に見事に網羅されているのです。 しかし、いざ「で、今この患者さんに一番優先すべき治療プログラムは何?」と聞くと、途端に言葉に詰まります。集めたデータを並べただけで、そこから先の「分析」を完全に放棄しているからです。

厳しいことを言いますが、検査結果を並べるだけならAIでも学生でもできます。「立位で膝が曲がってしまう」という一つの現象の背景には、筋力不足、感覚鈍麻、可動域制限など、無数の原因が絡み合っています。 個別のデータをただ眺めるのをやめてください。「どこに一番のバグ(問題)があり、どこからシステムに介入すべきか」という優先順位を割り出すことこそが、プロの臨床推論です。

その優先順位をつけるための強力なフレームワークとして、私は患者さんの動作を以下の「6つの要素」に分解して分析しています。

動作を分解する「6つの要素」

1. 感覚(Sensation)

表在感覚、深部感覚、固有受容感覚(筋紡錘やゴルジ腱器官)、前庭覚、視覚などのセンサーです。 筋力やROMに問題がないのに、なぜかいつも足元を見て歩く、あるいはどうしても足が曲がってしまう場合、この「無意識下のセンサー」が機能していない可能性をまず疑います。すなわち情報の入り口に問題があると、他の要素で代償してしまうということです。例えばツルツル滑る氷の上を歩くとき、私たちは足もとを自然と向いてしまいます。これは日常的に入ってくる足の裏からの感覚が得られないため、視覚で補っているのです。暗闇で歩く時は自然と手が上がり周囲に何かがないかての感覚を頼りにします。

少し話が脱線しますが、例えば浮腫がある方が立位をとる場合、確実に足底の機械受容器からの感覚入力が激減しているはずです。そこに介入して、例えば膝が伸びやすい、立ちやすい、反対の足が一歩出しやすいなどの変化があればそれは「浮腫により足底からの機械受容器からの感覚入力が低下していた」と結論づけて「浮腫」の改善をすればいいのです。しかし、ただ「足がむくんでいるから浮腫マッサージをします」とは同じ治療をしてはいますが、全く別物であるということです。すなわち分析のプロセスを挟んでいるかどうかが重要です。

2. 知覚(Perception)

入力されたいくつかの感覚情報を脳で統合・解釈し、意味のあるもの(空間認識や身体図式)にする能力です。 私たちは人混みで軽くぶつかっても無意識にバランスを立て直せますが、これは自身の身体と空間の位置関係を知覚できているからです。例えば、感覚検査や随意運動にさほど問題がないにも関わらず、立位や歩行になるとうまく動けない、ぎこちない動きになってしまう患者さんっていませんか?プッシャー症候群のような患者さんです。自ら麻痺側へ押し込んでしまう患者さんは、この知覚システムが根本からエラーを起こしています。このような患者さんは得てして努力的に頑張ろうとしてしまいます。私たちは感覚入力を正しく取り入れられるような環境、課題を提供してあげて、力を抜いて座れる、立てる位置を一緒に探してあげることが肝要です。

3. 認知(Cognition)

理解、記憶、遂行機能(プランニング)などの高次脳機能です。人が動く前には、必ず「実行しよう」という意思や計画などが先立って生じます。「トイレに行きたいから立って歩こう」というようなことです。動きを本人に意識してもらうように、あれこれ動き方を口頭で指示してしまうとかえって動きにくくなってしまう人もいます。もし何か課題、例えば座った状態で高いものを取ってください、と指示するとします。「立ってください」と指示してもうまく立てないのに、目の前の物を取ろうとする実動作の中ではスッと立ててしまう患者さんがいます。これは感覚や知覚、運動機能は保たれていると評価します。なぜならできるから。「意識的な運動のプランニング(認知)」にミスがある証拠です。特に前頭葉に障害がある人に問題が多く生じやすい傾向にあります。やる気が出ない(アパシー)なども含まれますね。具体的に認知機能障害に対して確立した治療プログラムは私は今のところないと思っています。(もしご存知な方がいたらぜひ教えてもらえると助かります)。少なからず筋力を鍛えたり、関節可動域訓練などは不要です。

4. 運動(Motor)

筋力、協調運動、随意運動、筋緊張などです。ここで多くの若手が「力が入らない=筋力低下」と短絡的に結びつけますが、それは大きな勘違いです。アライメント(姿勢)を徒手的に修正してあげるだけで、途端に適切な筋力を発揮できる患者さんも多くいます。これは筋力ではなく、前述の「知覚」のエラーという評価になります。どんな肢位でも、どんな環境設定、声掛けに対しても力が入らない場合、すなわち脳からの運動指令が弱化している状態とみなし純粋な運動(筋力)の問題と判断します。その場合は、筋の粘弾性を徒手的に引き出し、筋収縮がはっきしやすい筋の状態を作ること、そして本人にも意識的に動かすことを要求します。

筋の粘弾性
粘性:粘り気を指します。さらさらしていないということ。
弾性:ものが元に戻ろうとする性質、バネみたいなもの。

正常な筋には粘性と弾性が備わっています。脳血管疾患などで長期間動かさなかったり、脳からの指令が弱くなるとこの粘弾性が失われいます。筋がタルタルな感じになって、重力によって下に垂れ下がったままになってしまいます。これは徒手的に動かす必要があります。

5. バイオメカニクス(Biomechanics)

ROM、アライメント、重心、モーメントなど、物理的な要素です。 例えば、立ち上がりの際に足関節の背屈がマイナス10度だと仮定します。本来前に出るはずの膝が出ないため、非麻痺側へ体をねじって代償します。おそらく多くのPTはこの現象に出会ったことがあるのではないでしょうか。この場合、かかとにウェッジ(補高)を入れて足関節背屈を疑似的に無くした状態を作ってみます。それで代償が消えれば、バイオメカニクスが最優先課題だと確定します。変化しうるなら改善を、ないのであれば(例えば足関節に固定術をしていたり、下腿三頭筋の長期的な拘縮があるなど)装具などで代償を図ります。

学生や新人と関わると、この「バイオメカニクス」の問題に着目しがちです。しかし、何かしらの原因(上記に挙げた他の要素)がある結果、うまく身体が使えずバイオメカニクスな問題が生じる場合が多々あるのです(感覚や知覚などの問題は捉えるのが難しいので、経験が浅いと理解しにくいのは無理はありませんが)。いくら関節可動域練習をしても良くならないのは根本の原因が残されたままだと考えてください。

6. 感情(Emotion)

恐怖、回避、意欲、痛み、自己効力感です。 私も経験を重ねれば重ねるほど、心と体は完全に「半分半分」でリンクしているものだな、と日々痛感します。いくら身体機能が保たれていても、痛みや恐怖心という「感情のエラー」が筋緊張を異常に高める、もしくは極度に低下させます。 時には寝返りができない患者さんに対して、肩の痛みを取り除いた(あるいは痛くない動かし方を提示した)だけで、嘘のようにスピーディーに寝返りができることがあります。これは他の感覚運動要素には問題がないにも関わらず「痛み」という感情が、パフォーマンスを低下させる例です。

私もモチベーションが低い日の朝は、普段はなんてことない階段が、とても辛く感じるし、登り切った後ゼイゼイしてしまいます。それだけ感情が運動に影響してしまうのです。

推論の極意:「良いところ」をベースに「ひと手間」で検証する

この6つの要素を使って問題を絞り込む際、学校では教えてくれない重要なコツが2つあります。

1つ目は、「悪いところ」ではなく「良いところ(残存機能)」をたくさん見つけ出すことです。 「筋力はないが、バランスはすごく良い」「認知はしっかりしている」という機能しているシステムを確認できれば、そこへアプローチする無駄を省けます。

2つ目は、評価の中に「ひと手間加える(評価的治療)」ことです。 ハンドリングでアライメントを直してみる。口頭指示の量を変えてみる。環境を変えてみる。その結果、パフォーマンスが「良くなったか」「悪くなったか」で仮説を検証するのです。

例えば、動きを良くしようと細かく声掛けをした結果、逆に動きがぎこちなくなったとします。これは、本来「無意識(感覚・知覚)」で行うべき運動を、過剰な声掛けによって「意識化(認知)」させてしまい、システムを阻害したということです。ならば、その患者さんへの口頭指示はむしろ減らすべきだ、という答えが出ます。

個別の検査データをただ並べるだけの「検査屋」で終わらないでください。 問題の所在さえ論理的に絞り込めてしまえば、あとは何をやるかという「アイデア」の勝負になります。そこから先は、患者さんそれぞれのオーダーメイドです。

AIがどれだけ発達しようと、この「目の前の生身の人間からエラーの要因を特定し、物理的な介入によって検証する」という泥臭いプロセスは、現場の療法士にしかできません。若手には、単なるデータのコピペ集めではなく、システムをハックする「分析家」であってほしいと願っています。

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