当院では年に1回、スタッフとの個別面談を実施しています。
今後のキャリアの意向確認や、業務が自立して行えているかの進捗報告も目的の一つですが、私が最も重視しているのは別のところにあります。それは、「スタッフが自分の目指す目標に近づけているか」の確認と、そのための「自己分析」を促すことです。
業務の習得スピードは人それぞれですので、個人のペースに合わせれば問題ありません。しかし、人生の時間は有限です。自分が進みたい方向と全く違う努力をしていては、いつまで経っても目標には到達できません。
今期の面談を半分ほど終えてつくづく思うのは、「みんな、自分が掲げる目標に対する解像度が絶望的に低い」ということです。
「患者さんとコミュニケーションが上手になりたい」
「ADL(日常生活動作)をしっかり見られるようになりたい」
「動作分析のスキルを上げたい」
面談をすると、こうした目標が次々と出てきます。しかし、残念ながら大半のスタッフはそこで思考が止まっています。「どうすればその目標を達成できると考えているのか」「今、自分に何が足りないからそれができていないのか」「具体的にどんなアクションを起こすのか」という点まで、解像度を高く具体化できている子は全体の1〜2割しかいません。
さらに深刻なのは、「目標に近づくための『手段(認知)』を最初から間違えている」ケースが往々にしてあることです。
例えば、「患者さんとのコミュニケーションが上手になりたい」と語るあるスタッフがいました。彼は「もっと知識を増やして、病態や身体のことを深く知れば、患者さんに上手く説明できるようになり、コミュニケーションが改善するはずだ」と考えていたのです。
しかし、第三者である私から見れば、彼の課題は知識不足ではありません。「伝えたい、教えたい」という気持ちが強すぎるあまり、患者さんの話を全く聞かずに自分の意見を一方的に押し付けてしまっていることこそが、コミュニケーションの最大の障害でした。
彼がどれだけ医学知識を詰め込み、話し方を磨いたとしても、この「認知のズレ」を修正しない限り、本当の意味で患者さんと心を通わせることはできません。入り口の認知が間違っているため、その後に続く行動(アクション)もすべて見当違いな方向へ向かってしまうのです。
この「本人の認知のミス(ズレ)を指摘し、修正すること」こそが、私たち管理職の本当の仕事です。
「君は伝えるのは十分に上手だよ。大したもんだ。でも、患者さんの声をちゃんと聞けているかな? 相手のニーズに合わせて、話す内容を変えられているかい?」
そうやって、ハッとさせる気づきを与えるのです。
自分のことを100%正しく客観視できている人間など、私を含めて一人もいません。大なり小なり、自分に対する認知は「良く見すぎている」か「悪く見すぎている」かのどちらかに歪んでいます。傍から見ている上司だからこそ、そのスタッフの強みも、つまづいている原因もよく見えるのです。
認知のズレさえ修正できれば、あとは行動を徹底的に具体化(ハック)していくだけです。
「ただ話を聞く」のではなく、「1日必ず1人は、10分間しっかり傾聴する時間を取る」
「リハビリが終わった後に、必ず患者さん側の感想をインタビューしてみる」
「その場で本音を話してくれない患者さんなら、1週間かけて紙に要望や本音を書き出してもらう」
ここまで行動の解像度を上げれば、明日からの動きが確実に変わり、目標への距離は一気に縮まります。ちなみに30代半ばくらいまでは自分自身も全くできていませんでした。同じように当時の管理職に解像度を高めてもらったおかげで、自分をどうやって成長させていくかを知ることができました。この「解像度を上げる」というプロセスは人生にとって非常に有益です。このプロセスを身につけることで仕事だけでなく、プライベートでも活かすことができます。子供との接し方、教育資金の貯め方、人生設計など。
実は、この面談でのプロセスは、私たちが普段行っている「臨床(リハビリ)」と全く同じです。
「患者さんが今、できない本当の理由は何なのか」を、以前の記事で書いたような『6つの要素』から分析し、エラーの根本原因を特定する。ここを間違えたら、その後の治療プログラムがすべて無駄になるのと同じです。
私自身、昔はそんなことを考えたこともなかったですし、これが難しいというのは百も承知です。
しかし、他人の指摘によって、初めて自分の本当のカタチを知ることができます。
「自分はここでミスをしていたんだ」と気づいた瞬間こそが、人間が最も爆発的に成長するタイミングです。気づきというのは一瞬です。
部下のありのままの姿を受け入れさせ、軌道修正する。それこそが、面談という場に隠された大目標であり、マネジメントの本当の醍醐味です。
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