30代半ばで管理職になった私は、職場でいろんなトラブルが起こっても、時間が過ぎていくばかりで根本の解決には至らないことばかりでした。上司や同僚、部下からの評価や信頼ははもちろん得られず、管理職としてはシッパイばかりでした。そんな現状でしたから自分に全く自信が持てず、問題が起こるたびに心臓がドキドキして、慌てふためくばかりでした。そんなシッパイ管理職の私がある歌に出会ってから、少しずつ考え方を工夫してみた結果、徐々にですが問題解決能力が得られてきた実感があります。今回はその話をしてみようと思います。
私には3人の子供がいます。今はみんな小学生ですが、その上の子が4、5歳くらいだった頃の話です。今の時代の子供達はYOU TUBEやPrime Videoなどのコンテンツを見ることが多いのかもしれませんが、当時私たち夫婦は子育てをしながら、NHKのEテレというチャンネルをよく流していました。知っている方もいらっしゃると思いますが、その中で【Q〜こどものための哲学】という番組をよく観ていました。その番組の内容は、少しやんちゃな小学生Q君(声優:本田翼さん)が日常の中で様々な疑問にぶつかります。その疑問にぬいぐるみのチッチ(声優:ガッツ石松さん)がヒントを出しながら2人で考えを掘り下げていくという内容になっています。Q君の、生意気だけど一歩ずつ成長する素直さと、チッチの見た目の可愛さとしゃがれたおじさん声のギャップがとても印象的で、とても大好きな番組の一つです。
Q君が抱える疑問は下に載せたように、大人でも答えるのに悩むようなものばかりです。私も簡単に答えることができないですし、みなさんも結構頭を悩ませるのではないでしょうか。正解を出すことが目的ではなく視点を広げたり、違う視点から考えたりしながら自分なりの答えを導き出していく、というプロセスを15分に凝縮して見せてくれるこの番組は大人の私にとっても学ぶことが多く、Eテレ恐るべしと思った記憶があります。

NHK HPより引用
医療関連に限らず、仕事をしていると答えのない問題にぶつかることも多いと思います。もしQ君が理学療法士だったら、「どうしてリハビリをしなくてはいけないの?」「そもそもリハビリってなに?」「患者さんにとっての幸せってなに?」とたくさん悩みを抱えてくれるのではないでしょうか。この禅問答のような悩みに自分なりの答えを探しながら考え続けることの大切さを30代半ばの管理職であった私に教えてくれました。
今回はこの番組で流れていた一つの歌を紹介したいと思います。この歌は、問題解決するための考え方が1分半に全て詰め込まれています。その歌がこちらです。

ずっと3匹の猿が踊っていると勘違いしていたのですが、物事を掘り下げていくといつか目的に辿り着けるよ、というメッセージからモグラだったことに改めて観て気づきました笑。なぜ猿だと思っていたのか疑問です笑。手足が異様に長いからか、踊りが機敏すぎるからかな。
この歌の歌詞で出てくる8つのQワード、「なんで?」「ほかの考えは?」「反対は?」「もし~だったら?」「そもそも?」「立場をかえたら?」「たとえば?」「くらべると?」。専門的にいうとラテラルシンキングとも言うようで、ビジネス書などで学ばれている方は聞き馴染みがあるかもしれません。それを子供でも分かりやすいように砕いて歌っているのですが、これを実践している大人は意外に少ないような気がします。しかし私が社会人としてそれなりに信頼を得られるようになったのは、この歌のおかげと言っても過言ではありません。自分が普段この8つのQワードを使うときの考えを少し紹介してみます。
なんで? 理由をさぐってみる
理由を探ることが私は昔はとても苦手でした。上司に質問するたびに、「どうしてそう思ったの?」と聞かれて曖昧な返事をしてしまうこともしばしばありました。いろんな物事には正解ではなく理由があって、それを自分なりに理由づけする癖がつくととても説得力がつきます。
- 人に聞く前に、一度自分に「なぜそう思ったのか?」と質問してみる
- 職場の同僚や家族など、相手がなぜその行動や発言をしているか、本当の理由を考えてみる
- 上手く行ったことも、失敗したことも振り返って理由を探ってみる
ほかの考えは? いろんな考えを出してみる
特に部下と話をするときはできるだけ自分の意見は最後にした方がいいと思っています。そして部下の話を途中で遮ったり、否定してしないことをお勧めします。それを続けていくと部下は忌憚なく発言してくれるようになります。いろんな考えが出る会議と、忖度した発言ばかりの会議では長期的に圧倒的な差が生まれます。私は管理者は自分で答えを出さなくともいいとさえ思っています。優秀な部下たちが積極的に発言して、自ずと解決法が生まれることもしばしばあります。むしろその方が多い印象です。それを汲み取って方向性を決定するのが管理者の役割でもあると思います。
- 自分の意見を押し通そうとしない
- 会議や話し合いでは部下や同僚の意見をまずは全部出してもらう、自分の意見は最後
- 間違いを恐れずに思ったことを口にできる雰囲気を作る
反対は? あえて逆(ぎゃく)で考える
固定概念は自分では気づかないというのが厄介です。一説によると人は80%くらいは毎日同じ思考、行動をとっているそうです。それでは問題に対する対応策もワンパターンになり、返ってくる結果も似たり寄ったりになるのは当然です。その現象を極力無くすには、あえて反対から考えてみる、行動してみることをお勧めします。初めは違和感や不快感を感じると思いますが、徐々に感じなくなり、むしろ楽しみも得られてきます。新しい感覚を楽しみながらどんどん受け入れられるようになります。
- 脳卒中片麻痺患者の麻痺側を触れることなく治療することはできないか?非麻痺側から治療してみる。
- 手を使わないでリハビリする方法はないかな?逆に患者主体で動いてもらったらどうか?声かけだけで良くならないものかな?
- 今までだったら選ばない服の色、レストランのメニューなどをあえて選択してみる。通勤や通学をあえて違う道から行ってみる。
もし~だったら? 仮説(かせつ)を立ててみる
仮説を立てるときに大切にしていることは、その仮説が立証されるためにはどうすればいいか、をセットで考えるようにしています。問題が生じたとき、その原因を絞るには、いくつか仮説を立てて、検証する必要があります。それほど難しく考えずに、自分が立てた仮説が合ってると言えるには、何をすればいいかを考えるのです。
- もし消化器に問題があったら栄養が吸収できないから筋力強化は逆効果に?血液データを探ってみよう→やっぱり低かった→消化器から治療→改善→仮説立証。
- もし私の指導が間違っているから病院の実績指数が上がらない?だとしたら指導方法を変えてみる。
そもそも? 前提(ぜんてい)からうたがってみる
私は昔から天邪鬼な性格で、人がやれと言われると絶対やりたくなくなる性格です。今でも、そもそもなんで理学療法士やってるんだろう、とか、この職場で働かなくてはいけない理由ってあるのかな、など一生懸命働いていたら考える余地などないような変な自問自答を常に繰り返しています。何年もそんな捻くれた思考を続けて気づいたことは、大抵のことは思い込みや執着によって問題が生じているということです。
俯瞰して物事を見られるようになりたい、とは昔から思い描いていました。当然まだ私よりも思慮深く、物事を捉えられる 自分ができているかは分かりませんが、会議で物事が煮詰まったときに解決案や折衷案を提案できるのは基本的に自分がやることが多いので、少なからず得意ではあると思っています。
・患者のリハビリのモチベーションが低い原因は、そもそも家族との関係にある?
・患者に対して筋力強化しても筋力が上がってこない、、、そもそもご飯食べれてる?夜はしっかり寝ている?
・部下が成長しない。そもそも部下のリハビリ職を続けたいと思っているのかな?
立場をかえたら? だれかの気持ちになってみる
これは私自身、とても苦手です。なかなか人の気持ちが分からないと自分自身悩んでいます。ですが、まだ悩もうとしている分、自分よがりの意見を押し付けないようにはしています。完全に人のことを理解することは難しいかもしれませんが、一旦相手のことを考えると時間が生まれます。時間が生まれれば反射的に反発しあうことは避けられるので、それだけでも最悪の状況は少なくなります。自分もできていないので偉そうなことは言えませんが、少しずつ人の気持ちがわかる人間になろうと日々精進したいですね。
- 毎日夫が仕事から遅く帰ってきたら妻はどんな気持ちなのかな?子供達から見た今の自分はどうかな?
- 積極的に患者の自立を促進するリハビリスタッフを看護師からの視点で見てみる。耳障りのいいことばかり発言していないかな?
- なぜ上司はそのような助言や叱責を自分に対してしたのだろう?何か意図があるのかな?
たとえば? 具体的(ぐたいてき)にあげてみる
会議などで議論している内容がどんどん抽象的になってしまい、なんとなく全員の理解がぼんやりすることがあります。そのような状況になったら、私は具体例を出すことをお勧めします。キラーワードは「例えば?」です。他の人が発言している内容がよく分からなかったら、「それは例えばどんなことですか?」と尋ねれば抽象的な内容から現場レベルの具体的な内容に戻ってくるので、自分も周りの人も理解しやすくなります。
また、話がわかりやすい人は例え話が上手い気もします。私もそうなりたくて、誰かにアドバイスする時も、できるだけ例えば〜、と具体的に話したり、わかりやすい他の例を挙げてみたりして理解してもらいやすくしています。
くらべると? ちがいはどこかさぐってみる
私はiPhoneが世に出てからずっとiPhoneユーザーなのですが、新製品に買い替えるたびに、「こんなに小さいものを使っていたのか」、と感じた経験があるのは私だけではないでしょう。新しいものを手にする数秒前までは、一度も「小さい」と感じることはなかったのに、です。良いか悪いかは別にして、人は比べるものがあるとはっきりと感じてしまう、すなわち相対的に見てしまうのです。
それゆえに私も含め、人は比べたがるということを前提に考えて方がいいと思います。部下から、「自分は他の同僚に比べて仕事ができない気がする、成長が遅れている気がする」という相談がよくあるのですが、それに対して、人と比べても仕方がない、自分を見ることが大切だ、というキーワードをよく耳にします。私は比べたくなるのは仕方がないし、むしろどんどん比べて良いと思っています。比べるのは良いけど、それが良いか悪いかは分からないよね、むしろ同じ道に行かなくても良いのでは、と伝えています。大抵部下にはポカーンとされていますが笑。ですが、本当にどんどん人と比べて、人と違う部分を自分で認めてあげて、武器にして行って欲しいと思っています。いろんな人と会って、話して、どんどん人と違う自分を見つけて育てていきましょう。