「先輩、私たちはどれくらい、何を勉強したらいいんでしょうか?」「どうしていつまでも学び続けられるのですか?」
若いスタッフから、このような質問をよく受けます。正直なところ、この問いに一言で答えるのは簡単ではありません。本人の意欲、もともとの学習の定着力など、個人の特性によって最適解は異なるからです。そして、私が学び続けているかどうかはあまり実感がないのでわかりませんが、少なくとも他人からそう見えているのは、講習会に参加したり、アシスタントをしたり、学会発表したり、その行動が見えるからだと思います。そしてそれらはさほどストイックにやっているというより楽しさがあるんだと思います。わからないことがあったり、それを調べたり、やってみていい結果が出たりすることが単純に面白くなっているだけだと思います。
理学療法士として20年間働いてきた今、私は自信を持って言えます。
「臨床は、本当に楽しい」と。
自分の仮説がはっきりし、治療の予測が立てられるようになり、その予測通りに結果が進んでいく。このプロセスそのものが最高に面白いのです。
たとえ上手くいかなくても、「なぜダメだったのか」を納得し、すぐに「第2、第3の矢」を放つことができる。その試行錯誤すらも、今の私にとっては楽しみの一つです。
もしあなたの中に、「そんな風に楽しく臨床をやりたい!」という希望があるのなら、私がこれまで歩んできた足跡を一つの参考としてお伝えしたいと思います。若い皆さんが道を見失うことなく成長していくための4つの行動指針をまとめました。
1. 「認定理学療法士」の取得を目指す(ブレない「幹」を作る)
最近は、理学療法士協会への入会者や、県士会活動に参加する若手が減っていると言われています。「認定を取っても給料が上がるわけではないし、意味がないのでは?」という否定的な議論もよく耳にします。
しかし、私はそうは思いません。協会が組織として、講習会や試験を設計しているということは、そこには先人たちが積み上げてきた膨大な「理学療法の叡智」が凝縮されているはずです。厚生労働省の動向を含め、社会的な価値や信頼性を徹底的に吟味した上で作られたカリキュラムだからこそ、そこには理学療法士としての「ブレない幹」があります。
世の中には魅力的な治療技術やコンセプトが溢れていますが、まずはこの「幹」をしっかり太くすること。その上で、それぞれの専門分野(エキスパート)を目指すのが、結果的に最もブレない成長ルートだと私は確信しています。若い皆さんには、ぜひこの標準的なロードマップを軽んじることなく、チャレンジしてほしいと思います。現状では優遇する法人が増えている傾向はありますが、真の価値はそこではありません。今まではスタッフが「なんとなく」評価される現場が多かったですが、今後、実績・成果の評価が厳格化する中で、転職や独立、院内での要職登用において『標準的な医学知識と学習意欲を持った人間である』という客観的証明がなければ、そもそも評価の土台にすら立てなくなる可能性があります。公的な認定とは、それを持たぬ者を市場から弾くためのフィルターになりうるのです。
2. カルテを徹底的に読み込み、他職種と対等に話せる力を養う
これは、キャリアの後半にものすごく効いてくる重要な習慣です。
医師や看護師と対等にディスカッションするためには、リハビリの知識だけでは全く足りません。薬、手術、病態、症候学、さらには睡眠や栄養まで、幅広い知識が求められます。他部署の専門家と同等レベルになる必要はありませんが、「ある程度の会話が成立するレベル」の知識を持つことが極めて大切です。
この共通言語がないと、相手に「この人に何を言っても伝わらないな」と思われ、無意識のうちに会話のシャッターを下ろされてしまいます。逆に同じステージで話ができれば、他職種からの信頼は一気に高まります。
【実践法:カルテ読みと質問の習慣化】
① 医師のカルテを読み込み、わからない言葉はその場で調べる。
同じ病院で扱う疾患や処置には一定のパターンがあるため、習慣化すれば知識はどんどんあなたの中に蓄積されます。
②他職種に直接質問する
「この既往歴にはどんな症状がありますか?」「このお薬はどういう意図で処方されていますか?」など、医師や看護師にどんどん聞いてみましょう。人は頼られると嬉しいものです。関係性が良好であれば丁寧に教えてくれますし、あなたを気にかけてくれる味方が増えていきます。
私自身、今でも部下たちに「カルテから情報をしっかりと読み解くこと」の大切さを伝えていますし、私自身も日々、ディスカッションを深めるために質問と確認を怠らないようにしています。
補足
先日、この件に関係するエピソードがあります。先日当院の医師からある患者さんの退院時期を伸ばしてほしいと相談がありました。その患者様は仙骨の骨折で入院されている方で、急性期からの情報の既往歴には特記すべき病気はありませんでした。その症例はなかなかADLが改善しなかったのですが、退院間近なり自発性のなさ、易転倒性、仮面様顔貌、震戦があることに医師が気付きました。読んでいる皆さんすぐにわかると思います。パーキンソン病があるのではないかと医師は疑ったのですが、それに気づいたのが退院間近になってしまったのです。誰が悪いというわけではないのですし、入院中にそれを見つかり、適切な処方されたのはそれはそれでよかったのですが、PTがそれを見過ごしてしまったのも事実です。これに関しては週1回病棟のリハ管理者が集まり、患者ごとの症状や目標とADLの改善度を話し合うことで見落としを防ぐシステムを作りました。
普段から頻発するエピソードではありませんが、その後はこのような問題は生じてはいません。
3. 「インプット」以上に「アウトプット」にこだわる
講習会や勉強会に参加して知識を得る(インプットする)ことはもちろん大切ですが、それ以上に重要なのは「アウトプットすること(=何かしらの形にすること)」です。
症例をまとめて学会で発表する、研究を行う、院内の勉強会で発表する、あるいはA4用紙1枚のレポートにまとめて上司に提出する。何でも構いません。アウトプットには、時間と労力がかかり、時には結果が出ずに落ち込むという強いストレスを伴います。しかし、だからこそ価値があります。なぜなら、ほとんどの人は面倒なアウトプットを避けるからです。ここで一歩踏み出すことが、周囲との圧倒的な差別化になります。得られるリターン(知識の定着、論理的思考力、他者からのフィードバック)はインプットの比ではありません。まずは小さなアウトプット(上司にレポートを1枚見てもらう、同僚向けに10分のミニ発表をする等)から始め、ブログやSNSでの発信、そして学会発表へと、少しずつステップアップしていきましょう。
4. 「本当に患者を良くできる人」のそばで徹底的に学び、現場に落とし込む
私たちの仕事の根幹は、「目の前の患者さんを、より楽に歩かせたい、立たせたい、笑顔にしたい」という情熱にあります。それをゼロから自分一人で編み出すのは不可能です。先人が築いた素晴らしい叡智を吸収することが、最も早い成長の近道です。
そのためには、「実際に目の前で患者さんを良い方向に導いている本物のセラピスト」を見つけ、その人のそばで学びましょう。
優れた先生の講習会に足を運び、デモンストレーションを目に焼き付ける。できればその講習会のアシスタントを務めるなどして、近くで接する機会を増やしてください。私自身、今でも心から尊敬する2名のメンター(師匠)がいます。お会いするたびに多くを学ばせていただいています。
そして達人たちのものの考え方、評価治療の根幹となっているものを自分なりに考え(もちろん聞いてもいいです)、そのアルゴリズムを盗み、職場へと落とし込む。例えば、まず患者を見るときに何を見ているのか、そこからどこに手をつけ始めるのか、最終的には何を目指すのか。これらは患者ごとに違うので、その考え方の
根底にあるものを考えだし、現場で体現してみる。初めは難しいかしれません、ですがそれはそれでOK。またメンターに聞いてみたら、一つ深い、行動に即した質問ができます。そうするとより深い答えが返ってきます。これを繰り返すことで、自分も成長し、職場も成長していきます。ただし、達人の技術を盲信するわけではありません。盗んだアルゴリズムを、最新の論文や臨床ガイドライン(EBM)と照らし合わせ、本当に客観的な効果があるのかを検証しながら職場に落とし込むことです。達人の『泥臭い暗黙知』と、科学的な『エビデンス』の双方を掛け合わせることで、初めて誰にでも通用する再現性の高い臨床スキルへと昇華します。
おわりに
今回お伝えした4つの行動指針は、特に「20代・30代の頃に仕込んでおくと、40代になった時に圧倒的な差として現れるもの」ばかりです。
その積み重ねがあるからこそ、私は20年経った今、仕事を心から楽しむことができています。
皆さんが不毛に諦めてしまうことなく、臨床の面白さにいち早く出会えることを、応援しています。

