動作分析のコツを掴むために、「抽象化」と「具体化」の視点を行き来する思考プロセスについて説明します。
まず、車椅子でリハビリ室にきた患者さんを見たら、こう自分に質問してみてください。
「私は何が一番気になるか?」「最初に目に飛び込んだものは何か?」
抽象度が高くて構いません。なんとなく足が気になる、全身が硬そうだ、頭が大きく動きすぎている、目が合わない、など何でもいいのです。養成校時代の臨床実習では「第一印象」と呼ばれ、動作分析の世界では「ゲシュタルト分析」、現在のBobath Conceptでは「Critical cue」と呼ばれるものです。つまり、直感も含めた患者さんの様相から感じ取る、こちらの「印象(抽象)」です。
それを頭に入れた上で、次は少しだけ「具体化」してみます。
「足が気になる」→「どう気になるのか?」。片足のアライメントが崩れて外に倒れている?外反ができない?足底の内側が支えられない?下腿三頭筋が短い?
ここではまだ答えを出さず、具体的な仮説をできるだけリストアップします。
【動作分析と介入のシステムフロー】
- 1. 抽象的観察(Critical cue) ➔ 直感的な違和感・印象の抽出
- 2. 具体的仮説の構築 ➔ アライメントの崩れや筋状態の言語化
- 3. 抽象的介入(抵抗の感知) ➔ 理想位へ修正し、対象者の「抵抗感」を探る
- 4. 局所的評価(具体) ➔ 触診や徒手介入で真因(筋・関節等の問題)を特定し修正する
- 5. 運動の再学習(抽象) ➔ 抵抗が消えた状態で、新しい運動パターンを脳にインストールする
次に、気になる部分を「理想的な位置」に修正してみましょう。
しかし、ここで一つ決定的な注意点があります。「気になる部分を正しく修正したところで、人の動きが改善すると思い込まないこと」です。
なぜなら、対象者(の脳)は、必ず何かしらの理由があってその「悪い位置」をとっているからです。他者がヒョイっと良い位置に直して済む問題なら、初めからその理想的なアライメントをとっているはずです。その方が効率的に動けるのですから、脳は本来そちらを選ぶはずなのです。
少し抽象度を上げて、細かいことは気にせず、気になった部分を強制的に理想的な位置に直してみましょう。必ず何かしらの「抵抗」を感じるはずです。
例えば、立ち上がろうとする時に麻痺側下肢が外転し、足部が内反している人がいるとします。その足部を強制的に中間位に戻してみます。そこから底背屈ができるでしょうか。膝が前に出て、股関節は動いてくるでしょうか。経験上、ほとんどの人は動けません。足をまっすぐに直しても、そこで骨盤が動かなければ立ち上がることはできないのです。
まさにここが、多くの若手理学療法士が誤った認識をしてしまう部分であり、私がこの記事で最も伝えたいシステムエラーです。かつての私も「関節や筋を正しい位置に直すことで運動が効率的になる」という思い込み(バグ)を抱えていました。
対象者の脳は、他者から勝手に修正されただけの「正しい位置」で動くことをまだ容認していません。むしろ「害」であるとさえ感じている可能性があります。その状態では、いざ動こうとした時にうまく作動しません。正しい位置に全身を修正した途端、かえって対象者が動きにくくなる様子を見たことはないでしょうか。理由がまさにこれです。
「正しい位置にすること」そのものに抵抗があるか、あるいは正しい位置にした時に「他の部分」が動かなくなる。そこに何かしらの原因が潜んでいます。
ここで再び「具体化」します。何によるエラーなのかフォーカスを絞り、触診や徒手的な介入を用いて問題となる筋や靭帯、関節を見つけていきます。ヒラメ筋が短縮しているか?外反筋の筋緊張が低下しているか?足底腱膜が硬く、足内在筋が弱化しているか?
評価して問題が見つかれば、そこに手を加えます。
そして最後に、正しい位置で「新しい動き」を再び学習していきます。
その動きを脳が容認するには、適切な負荷やスピード、時間、バリエーション、そして反復というシステムが必要不可欠です。新しい動きを脳が受け入れて初めて、対象者の運動は効率的に作動し始めます。これは老若男女、国籍問わず、人の脳が持つ普遍的な特性です。
初めの抵抗感が無くならなければ、また違う部分に着目して介入すればいいのです。もし抵抗感がなくなったら、そこで本来求めていた動き(立ち上がり動作など)を対象者と一緒に理想的な動きで遂行してみてください。
ここで注意すべきは、最初から対象者本人だけに動かせないことです。脳が昔の運動パターンを選ぶか、新しい効率的な運動パターンを選ぶかはまだ分かりません。だから初めは「手を貸した上で」、正しくゆっくりと確実に新しい動きを誘導します。
そこで対象者のほとんどは気づきます。「こんなに楽に立てるものか」と。
次は少しだけこちらの手を緩めます。すると対象者はさらに自分の潜在能力を感じます。数回繰り返し、安全性が確認できたら、最後は手を貸さずに対象者自身だけで挑戦してもらいます。これができれば、1時間前にはできないと思っていたことができたという「自分の可能性」を強く感じるはずです。
これが、私が普段現場で実行している「動作分析から問題点抽出・介入」の思考プロセスです。文字だけでは伝わりにくい暗黙知の領域ではありますが、少なくとも「人の脳が持つ特性に対する誤解」だけは解きたいと思い、言語化してみました。

