シッパイしない回復期リハビリテーション病院の選び方

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今の日本の医療制度では、脳卒中や多発骨折、脊髄損傷などを受傷した場合、通常は救急車に乗って、近隣の総合病院や大学病院に入院し、手術を受けたり薬を使って治療を受けます。そこで治療を受けた後に、自宅に帰れる人もいれば、足腰が立たない、手が動かない、意識がはっきりしないなどさまざまな理由で自宅に帰れない人がいます。そのような場合、急性期の病院の相談員から回復期リハビリテーション病院(以下回リハ病院と略します)への転院を打診されます。そして、おそらく家族の面会や荷物の持ち運びがしやすい自宅近隣の回リハ病院に入院する運びになることが多いと思います。しかし果たして自宅から近いという理由だけで、大切な時期を過ごす回リハ病院を決めてしまっていいのでしょうか。

例えば車や家を購入するとき、1つのディーラーやハウスメーカーだけで見積もりをして購入に至る人は少ないと思います。多くの人は複数の店に足を運んで、いくつか車や家を検討してメリットやデメリット、金額などについて調べたのち、比較検討して決めていくのではないでしょうか。しかし回リハ病院に関しては、相談員に勧められるまま、もしくは家が近いという立地的な理由だけで、十分に比較検討することなく決めてしまっていることが多々あるような気がします。

言わずもがな、自分やご家族において、体の状態、例えば歩けることや、手が動かせる、心が健康である、ということは今後の人生を左右すると言っても過言ではありません。理学療法士として20年弱働いてきた経験から、入院した方がいい回リハ病院とそうでない病院は残念なことに存在します。今回、その違いや特徴をまとめましたので、ご自身やご家族の大切な体、並びに今度の人生を取り戻すためのリハビリ期間を後悔しないものにするために役立ててくだされば幸いです。

あまり知られていないかもしれませんが、回リハ病院は国からランクづけされています。厚生労働省のホームページで確認すると下の表のようにランクづけされています。これだけだととてもわかりにくいので、簡潔に説明します。

厚生労働省.令和6年度診療報酬改定の概要より引用

回リハ病院は入院料1から入院料5という5段階のランクに分けられています。ランクとしては入院料1が一番上で5が一番下です。入院料1に近いほど、看護師やリハビリ専門職、管理栄養士などの専門職が多く配置されている、もしくは必ず出勤している、毎日リハビリがある、定期的に患者の回復度合いを確認している、重度の患者が回復している実績がある、患者の回復度合いが良好である、ということです。その分、リハビリを受けた時間の単価、病院側に支払うお金等は高く設定されています(通常1ヶ月の入院費が高額になるため、高額療養費制度を適用される方が多く、入院料の違いによって支払う金額はそれほど大きな差はないことが多いです)。

可能な限り入院料1の回リハ病院を選んでください。

回リハ病院に転院を勧められたら、選択肢にある病院のインターネットで調べるか、もしくは相談員に直接聞いてみてください。入院料1は医師や看護師やリハビリ職、相談員などさまざまな職種が連携しないとなかなか維持することができない基準に設定されています。すなわち病院としての統制が取れている病院が多いと思われます。2022年度のアンケート調査(主に200床以上の病院が対象)では、入院料1を算定している回リハ病院の割合は25.4%、別の集計では26.8%と報告されており、決して多くありません。入院料1を取るには、上記の表のようにある程度厳しい条件をクリアしなければなりませんので、入院料1の認定を受けている回リハ病院に入院すればそれほど悪くないリハビリを受けることができるということです。しかし入院料の数字が回リハ病院の質を全て表しているわけではないので、更にみるべきポイントを押さえて、質の良い回リハ病院を探しましょう。

次にみるべきポイントとなる数字についてお話しします。回リハ病院の重要な役割の一つは、身体機能を改善し日常生活をできるだけ支障がなく送れるようにすることです。それを数値化したものが、【実績指数】というものです。これは国が回リハの入院料を決めるための一つの指標ですが、この実績指数の意味は【どれだけ短い入院期間でどれだけ患者が回復するか】を表す指標です。

厚生労働省.日常生活動作(ADL)の指標 FIMの概要より引用

細かい計算式の説明は割愛しますが、入院料1はこの実績指数を40以上にしなくてはなりません。簡単に言えば回リハで勤める職員は、できるだけ早く患者の体を良くして、早く自宅に退院させなければならないというわけです。そうしないと入院料1が取れません。

ちなみに私が勤める回リハは開設以来入院料1を維持しています。維持することはとても大変なのですが、やるべきことをやっていれば難しい条件ではありません。そのためには私たち職員はどうしているかをお伝えします。病院の経営が安定しなければ医師や看護師などの人員配置ができないので、そこに関しては私たちが手をつけられない部分もあります。しかし、具体的には、①他職種と連携を強めるためにカンファレンスや業務中の情報共有を徹底する、②リハビリの内容が適切かどうか、担当者以外のベテランのリハビリスタッフが必ず確認する、③退院時期を医師だけでなくリハビリ職、看護師、社会福祉士の全員で決める、などを行なっています。医師がリスク管理をしながら服薬を決め、必要に応じて患者様本人やご家族に病気の説明をしながら病気や予後に対する理解をしていただき、看護師が病棟生活をできるだけ快適なものになるようケアをしながらリハビリ職が身体や精神の回復を最大限引き出す。また社会福祉士が本人や家族と連絡をとりながら入院期間や退院先についての情報提供や決定をお手伝いする、介護福祉士がトイレや着替えなどの身の回りのケアをする。これらがうまく連携できていることが質の高い回リハ病院に必要な要素になります。

これらのような取り組みの先に、患者様に対してより良いリハビリを提供する環境が必然的に整えられると思います。逆に漫然と各職種が別々の方向を向きながら仕事をしてしまうと実績指数を40以上に維持することは難しいのです。実績指数をどこで知れるのかと言いますと、病院によってはホームページに載せている場合もありますし、相談員に質問すれば答えてくれると思います。自分や家族が入院する回リハ病院がどれだけ実績があるか調べないまま入院を決めてしまうのは避けましょう。万が一入院してしまった後でも、他の回リハ病院に転院することも可能ですので、いつからでも遅くはありません。

私の義理の祖母は北関東にある特別養護老人ホームに入所していました。とても驚いたのですが、その老人ホームのスタッフ全員が面会者とすれ違いに挨拶するときに、必ず笑顔で挨拶していたのです。当たり前のことかもしれませんが、私の病院では挨拶はしても、笑顔を向けているスタッフはほとんどいません。他の病院に行っても、それほど気持ちのいい挨拶をされた経験はありませんでした。たったそれだけのことですが、その老人ホームに対する私たちの信頼は揺るがないものになり、祖母の最後をお願いして良かったと心から思える施設でした。

もちろんその施設の日常のケアや関わり方などの全てを目にした訳ではありません。しかし心地いい笑顔と挨拶ができている施設とそうでない施設では、前者の方が質の高いケアができている可能性は高いのではないでしょうか。おそらくですが、職員教育の結果の現れですので、笑顔や挨拶は氷山の一角であり、あらゆることに関しても配慮がされているに違いありません。ましてや虐待などはないでしょう。それだけで信頼に足るという訳です。将来、もし親族が施設入所するときにはまたその施設にお願いしようと思っています。

話は戻って、ぜひ入院前に一度回リハ病院に訪れて、スタッフの態度や表情を見てみましょう。もちろんそれだけで全てを決めつける必要はありませんが、意外と病院の雰囲気などは肌で感じ取れると思いますので、判断基準の一つにしてみましょう。

次に、もし入院前に回リハ病院に訪問することができるなら、ぜひリハビリ室を訪れてみましょう。以前はコロナ感染予防のため面会を中止している病院も多かったですが、コロナウイルスの5類移行後は、ほとんどの病院が面会を再開しています。あらかじめ相談員などにリハビリ室の見学の意向を伝えておけば、それほど難しくなく見学できると思います。

いざリハビリ室に見学に行ったら、リハビリを受けている患者様たちの様子を見てみましょう。可能であれば10〜15分程度、ふらふらと見回ってみるといいと思います。もし、その15分間でほとんどの患者様がリハビリベッドで横になってリハビリを受けていたら少し注意が必要です。リハビリは寝て受けても良くはなりません。もちろん全ての人に当てはまる訳ではありませんが、私たちは可能な限り立ったり、歩いたり、起きたりすることで患者様の回復を促進しなくてはなりません。なぜなら重力に対してバランスよく身体を使わなければならないからです。寝ている状態は重力の影響は最小限になります。言い方が悪いかもしれませんが、リハビリスタッフ側が患者様を寝かせて足を揉んでいるのが一番楽なのです。逆に、患者様がたくさん立つことや歩くこと、ものに手を伸ばすことなどを積極的にやっていて、リハスタッフがそれを助けているような場面が見られるリハビリ室は質が高い可能性があります。主観的なのでなかなかわかりにくいかもしれませんので、少なからず15分くらい見学して、リハビリ室の9割くらいの患者様が寝てマッサージされているような病院は注意した方がいいと覚えておいてください。

最後の話は入院してからの話になります。リハビリスタッフに限らず、回リハ病院の職員は、患者様や家族に対して月に1回は必ずリハビリテーション実施計画書という書類を作成しリハビリの方向性や内容を説明しなければなりません。これは義務なので入院したら必ず月に1回説明を受けることになると思います。その時、もしあなたが家族なら、患者様の体の状態やリハビリの内容に関して、リハビリスタッフに必ず質問しましょう。細かく聞くことに少し気が引ける方もいらっしゃると思いますが、そこは勇気を出して聞いてみましょう。

しっかりと理解できるように噛み砕いて説明してくれる病院は良い病院の可能性が高いです。もしそうでなければ少し注意した方がいいかもしれません。その理由は、家族にわかりやすく説明できないリハビリスタッフは、患者様にも同じように説明している可能性が高いからです。リハビリは患者様本人が行うものです。その患者様に、目標やそれを困難にしている原因、それを改善するためのプログラムについてわかりやすく説明している病院とそうでない病院ではリハビリの結果は必ず変わってきます。もし担当のリハビリスタッフの説明が分かりにくかったらリハビリ部門の管理職に聞いてみてもいいでしょう。そこまでしても上手くいかず、信頼することが難しければ、他の病院に転院することも可能です。患者様にとって大切な時期ですので、不毛に過ごしてしまうのはもったいないですので、ここは少し気持ちを強く持って転院することも視野に入れましょう。

  • 回リハ病院は入院料1を選ぶ
  • 実績指数が高い病院を選ぶ
  • 面会時のスタッフの挨拶がいい病院を選ぶ
  • リハビリの様子を見て、活発に立ったり歩行している病院を選ぶ
  • リハビリの説明が分かりやすい病院を選ぶ

リハビリは正解がないからこそ、病院のよって質が全然違います。車や家を買う時以上に、回リハ病院はしっかり吟味した上で選びましょう。

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