この記事は2026年2月6日デバッグ済みです
医療やリハビリの現場では、どんなに経験を積んだスタッフでも、患者様からクレームを受けてしまうことがあります。しかし、それが特定のスタッフに集中し、何度注意しても改善しない場合、上司はどうすべきでしょうか。管理職になりたてだった私もそうであったように、多くのリーダーは「叱責」という名の「対症療法」を繰り返しがちです。 「ちゃんとしてください」「前も言いましたよね」 しかし、痛み止めを出し続けても骨折が治らないように、根本原因(病態)を見誤った指導は、事態を悪化させるだけです。
今回は、実際にあったケースを通して、「問題スタッフの行動変容」を理学療法士の得意技である【臨床推論(仮説検証)】で攻略する方法を解説します。
症例紹介:主訴「態度が悪い」
ある日、1人のリーダーから相談を受けました。
「またAさんの患者様からクレームが来てしまいました」。
内容を聞くと、
- 態度が横柄(患者様に対して上から目線、攻撃的な言動になりがち)
- 時間にルーズ
- 治療で思うように接触(触診や介入)してくれない
などの声があったとのことでした。
そのリーダーはその都度Aさんに注意をしており、再発しないように丁寧に話をしてきたそうです。
最初は穏やかに助言していましたが、同じことが何度も続くうちに、だんだんと語気が強くなり、注意の場が「叱責」に近くなっていたと話してくれました。
私もその気持ちはよくわかります。
何度も繰り返されると「もういい加減にしてくれ」と言いたくなりますよね。
おそらく多くの方も同じ経験があるのではないでしょうか。ここで私が介入しました。まず行うべきは、説教ではなく「評価(アセスメント)」です。
評価と統合と解釈:なぜ彼は「攻撃的」なのか?
こういう時こそ、感情的にならずに【仮説検証】の最初のステップ——「情報収集」から始めることが大切です。
Aさんは作業療法士8年目の中堅スタッフで、中途採用。前職では後輩指導やチームリーダーのような立場も経験していました。仕事の話をすると、患者様の状態を正確に把握しており、私たちの病院ではあまり馴染みのない治療手技にも詳しい。要するに、スキルも知識も持っている。
それでもなぜクレームが起きてしまうのか。
そこで私は次のステップ、「詳細な観察」に移りました。
詳細な観察から見えてきたAさんの姿
しばらくAさんの業務の様子を注意深く見てみると、いくつかの特徴が見えてきました。
- 患者様に対して少し言葉遣いが荒い。
- 後輩スタッフとは親しげに話すが、先輩との関わりは少ない。
- 後輩には強めの指導をすることがある。
- 前職では後輩を指導していたが、今の職場ではその立場がまだ与えられていない。
- 上司との関係では少し距離を置いている印象がある。
こうして見ていくうちに、Aさんの人となりが少しずつ見えてきました。
そして私は次のステップ——「統合と解釈(病態生理)」に進みます。
私が立てた仮説:「もっと評価されたい」
ここから導き出される【統合と解釈(病態生理)】は何か。 単に「やる気がない」「性格が悪い」ではありません。
私の仮説(診断): 「自己効力感の低下による過剰防衛(代償動作)」
彼は、前職でのプライドと、現職で評価されていない現状のギャップに苦しんでいます。 「自分はもっとできるはずだ」という焦りが、「自分より立場の弱い人間(患者・後輩)を支配することで自尊心を保つ」という代償動作として現れているのです。 つまり、彼の横柄さは、「自信のなさ」の裏返しです。 ここに「叱責(お前はダメだというメッセージ)」を投薬しても、彼の防衛本能はさらに強まり、症状(反発)が悪化するのは生理学的にも当然です。
治療プログラム:承認という「栄養」と、役割という「運動療法」
病態がわかれば、治療方針は決まります。 彼に必要なのは「叱責」ではなく、「健全な形での自尊心の回復」です。
Step 1:インフォームド・コンセント(事実の直面化) 面談を行い、クレームの事実を伝えます。ここでは感情的に怒る必要はありません。レントゲン写真を見せるように淡々と伝えます。 「君の高い技術が、態度のせいで伝わっていない。これは非常にもったいない」
Step 2:リハビリ処方(役割の付与) 彼の「認められたい」というエネルギーを、攻撃ではなく「貢献」に使わせます。 私はこう依頼しました。 「今度導入する予定の新しい評価バッテリーについて、君の知識で分析してチームに共有してくれないか?」
これは、彼にとっての「適切な負荷の運動療法」です。 無理に「おだてる」のではありません。「君の知識はチームに必要だ」という事実を作り出し、健全な承認欲求の満たし方を再学習させました。
3か月後の変化
面談からおよそ3か月が経ちました。今のところ、新しいクレームは出ていません。
もちろん、たまたまという可能性もあります。
ですが、現場で彼を見る限り、後輩や患者様への接し方が以前より穏やかになり、リーダーや私との会話が増えたように感じます。
ただし、これは私自身が関わっているという私の確証バイアスが働いているかもしれません。
ですから、他のリーダーや同僚にもAさんの印象を聞いて、客観的に確認していこうと思います。
マネジメントも「SOAP」で回せ
今回の事例から言えることは一つです。 「言葉で説得(注意)」する前に、「構造を分析(評価)」しろ。
リハビリで患者さんの代償動作を見つけたら、無理やり止めるのではなく「なぜその動きが出ているのか(筋力低下?可動域制限?感覚障害?)」を考えますよね。 スタッフ指導も全く同じです。 「困ったスタッフ」というラベルを貼る前に、その裏にある「満たされない欲求」という病巣を探してみてください。
おわりに
今回のAさんへの関わりは、まだ「途中経過」にすぎません。
今後どう変化していくかはわかりませんが、少なくとも“注意を繰り返すだけでは変わらなかったスタッフ”が、“関われる対象”に変わりつつあります。
人を動かすのは言葉ではなく、関心と理解です。
時間はかかりますが、その過程こそがマネジメントの醍醐味だと思います。
この経験が、同じような場面で悩む方の参考になれば嬉しいです。
| ステップ | 医療プロセス | 具体的なマネジメント行動 |
| 1. 観察 | 問診・評価 | 「あいつはダメだ」と感情的にならず、「誰に対して強気で、誰に対して弱気か」を観察する。 |
| 2. 推論 | 統合と解釈 | その問題行動は、「何を守るための代償動作か?」を仮説立てる。(例:プライド、恐怖、自信のなさ) |
| 3. 介入 | 処方・治療 | 「ダメ出し(叱責)」ではなく、「強みが生かせる役割(リハビリ)」を与える。エネルギーの出口を変える。 |
| 4. 確認 | 再評価 | 行動が変わったら即座にフィードバック(承認)し、「良い動作」を定着させる。 |
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