立ち上げ6年で見えてきた、スタッフが働き続ける理由 ―PERMA理論というレンズを通して『自組織の環境』を点検する―

【指揮】部下を潰さない「現場マネジメント」

回復期病棟を立ち上げてから6年が経ち、ようやく病院も落ち着き、スタッフもしっかり同じ方向を向いて働けるようになってきた段階です。

以前の記事にも書いた通り、面談や月1回のヒアリングを続けてきました。その中で少しずつ見えてきた、「人が働き続ける上で最も大切なこと」について今日は話したいと思います。これは管理者向けの話です。

欠点探しだけでは足りない

管理者という立場は、スタッフの人事評価、効果判定、日々の業務態度や勤務状況など、いろいろなことを評価しなければなりません。時には点数化し、時には言葉でフィードバックをする。そうすると、どうしても欠点をまず見つけたくなります。他の人より劣っているところ、最近起こしてしまったミス、患者さんからのクレーム、他のスタッフからの印象。マイナス面ばかりに目が行きがちです。そこが改善されればミスが減ると考えているからです。

これは部分的には正しいと思います。ミスを放置すれば再発しますし、マイナス部分を放っておけば周囲への影響も広がります。しかし、私の経験上、それだけで十分ではありませんでした。

以前の記事にも書きましたが、私の友人の管理職は非常にストイックで仕事ができる優秀な人です。ただその分、部下のミスに厳しくなりやすく、叱責し、原因を本人にも追求させ、再発防止の行動変革を求め、必要ならマニュアルを作り直す。こういう人がいる組織はどうなるかというと、ミスは減るどころかかえって増え、離職率も高くなります。皆さんの周りにもおそらく当てはまる人がいるのではないでしょうか。

幸せの5つの要素 ―PERMA理論

人は誰もが幸せに生きたいと思っています。これは仕事においても普遍的なことだと思います。アメリカの心理学者マーティン・セリグマンは、幸せには5つの要素が必要だと提唱しました。これはPERMA理論と呼ばれます。ポジティブな感情、没頭、人間関係、意味、達成の5つです。

P(Positive Emotion / ポジティブ感情): 喜びや希望などの前向きな感情
E(Engagement / 没頭・エンゲージメント): 時間を忘れるほど熱中できる活動や心理状態
R(Relationship / 良好な人間関係): 他人との友好かつ深いつながり
M(Meaning / 人生の意義): 自分より大きいもの(社会や組織など)に対する貢献、目的の理解
A(Accomplishment / 達成感): 目標の実現に少しずつでも近づいている感覚

ポジティブな感情は、そのままです。楽しい、患者さんが良くなって嬉しい、スタッフと働けて楽しい。ただこれだけでは本当の幸せには足りないようです。

没頭は、時間を忘れるくらい何かに打ち込んでいるかどうか。管理職としては、そのスタッフは何かに没頭できているかという視点で部下を見るのもいいと思います。没頭できるものがないと、心の幸せはあまり満たされません。

人間関係も重要です。一人で何かに没頭していても、他者との関係性がなければ「一体自分は何をやっているんだろう」という感覚に陥ります。誰かに喜んでもらえた、いいコメントをもらえた、そうした関係性が大切です。

意味は、自分のやっていることが自分より大きな何か(組織、病院、家庭など)に対して意味があると感じられているかどうか。関わっている内容や責任の大きさに関わらず、自分がその一部として意味を成していると思える感覚、いわば帰属意識です。「静かな退職」という言葉もありますが、組織にいながら組織とのつながりを全く感じられないスタッフは幸せそうには見えません。

達成は、目標に一日一日でも近づけているという感覚です。この感覚があれば、その日その日の気分の良し悪しは天気のようなもので、人生全体の幸せを大きく左右しません。今日は疲れたけれど一生懸命作業をやり遂げた、今日は同僚との口論があったけれどそれで組織が少し前に進んだ、仕事は上手くいかなかったけれど同僚が慰めてくれて良好な関係が築けた。そんな風に、その時の気分だけで幸せを判断しなくなります。

先ほどの優秀だけど厳しい管理職の部下には、もしかしたらこの5つが感じられていないのかもしれません。自分がやっているというより、やらされている感覚。組織に貢献しているという実感がなく、正直な気持ちも伝えられない人間関係。何かに没頭しているというより、やらなければいけないという受動的な感覚。目標に向かっているというより、次の叱責が来なければいいという感覚。そんな感情が渦巻いているのかもしれません。

面談やスピーチで投げかける問い

では、どうすればいいのか。まず大前提として、管理職はこの理論を部下に課すのではなく、この枠組みを通して部下の幸せを分解して診てみます。ポジティブな感情があるか、何かに没頭しているか、自分の気持ちを隠さず離れる同僚がいるか、この組織で働く意味を感じられているか、誰かにやらされているのではなく自らの成長を感じているか。そういう目線で見ていくと、部下の幸せ度がはっきりと見えてくるものです。

ここで注意するのは「幸せはいつも笑顔で楽しいというだけではない」ということ。しんどいこともある。ただ、そのしんどさの中に達成感や没頭感が存在しているかどうか、そこを見ます。面談では必ずこう聞くようにしています。「最近、一番時間が経つのが早かった業務は何?」「今の仕事で、もっとこうしたいと思う障壁はある?」

こうした問いを投げかければ、自然とそういう思考になっていきます。

また、私もかつてそうだったように、若いスタッフには職場で働く意味がわからないものです。最近私は、会議や食事会などでスピーチを頼まれた時は、必ず「私たちの病院がこの場所に存在する意味」を伝えます。例えば、「みんながここで働いていることが、この地域の人たちにとっての安心材料になる。病気や怪我をしてもこの病院に来れば、また良くなって家に帰れる、という気持ちを持ってくれる。私たちは地域に根差した病院を目指しているし、徐々にそうなりつつある。だから目の前の患者さん、日々の業務に一生懸命取り組んでほしい」と。そうすることで組織や社会とつながることができる。自分の普段の取り組みが何につながるのかがわかるのです。

ただ言葉で伝えるだけでは足りません。当院では、FIM利得や在院日数の短縮といった一見ドライな『経営の数値目標』を、そのまま現場に押し付けることはしません。この数字を達成することが、『患者がいかに早く、高いQOLで元の生活に戻れたか』という地域貢献の指標(M:意味)であり、プロとしての成果(A:達成)であるのだ、と翻訳した上で日々のカンファレンス、ディスカッションの場で可視化しています。数字と理念を結びつける仕組みがあって初めて、スタッフは自分の業務に没頭(E)できるのです。

ステップ1(対話の実践): 面談の問い(「時間が経つのを忘れた業務は?」など)を通じて、部下個人の内発的動機(EやAの種)を探る。

ステップ2(仕組みへの接続): 面談で得た個人の関心と、カンファレンスで可視化している経営数値(FIM利得=QOL向上=M)を紐づけ、日常業務の中で「自分の成果(A)」として実感させるフィードバックループを回す。

おわりに

もし職場でスタッフのマネジメントに悩んでいる方がいたら、ぜひこのPERMA理論というレンズを通して部下の幸せ、組織のあり方を点検してみてください。私自身もかつては、褒めたり賞賛したりすれば人は残って楽しく働いてくれると思っていましたが、どうやらそれだけでは足りないようです。自分に当てはめてみても、褒められているだけではやっぱりもの足りないものです。

達成感(A)や没頭(E)は、決して『楽な職場(ぬるま湯)』からは生まれません。高い要求水準や、時には意見の衝突といった『適切な負荷と摩擦』をチームで乗り越えるからこそ得られるものです。だからこそ、ぬるま湯ではない厳しい環境下でも折れないためのセーフティネットとして、人間関係(R)やポジティブな感情(P)の土台が必要になるのです。友人の失敗は、ミスを追及すること自体ではなく、『原因追及とマニュアル再構成』に終始した結果、部下の心理的安全性を奪い、自発的な試行錯誤(E:没頭)や達成感(A)の機会を完全に潰してしまったことにあります。管理職が与えるべき負荷とは、恐怖政治によるミス回避ではなく、共通の目標に向かって自発的に試行錯誤させるための『肯定的な挑戦(負荷)』でなければならないのです。そこに私たち管理職が気づき、正しく手を差し伸べる必要がありのではないでしょうか。

関わった全ての同僚にとって本当の幸せを感じながら働ける職場を、これからも作っていきたいと思います。管理職の皆さんも日々大変だと思いますが、少しでも役立てば幸いです。

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