週1回、15分の対話が教えてくれたこと
久しぶりに、A君との対話で大きな気づきがありました。以前もこのブログで触れた、リーダーのA君。彼とは週に1回、15分ほどの対話の時間を強制的に確保しています。理由は単純で、彼は病棟の違和感や、この先起こり得ることの予測、場の空気を読むことが極端に苦手だからです。放っておけば、この手の力は絶対に伸びません。だから、時間を「確保する」ところから始めるしかありませんでした。
「自主練習を提案していない」という指摘
今日の対話で、彼から管理部署のハビリスタッフのマネジメントについて、こんな指摘がありました。
「若いスタッフは患者さんのリハビリの時間だけは一生懸命やるのですが、それ以外の時間はベッドで寝かせてしまっているんです」
まとめると
・入院生活全体ではなく、リハビリの時間だけを評価してしまっている
・自主練習を提案することがそもそもない
・しかも、それは若手スタッフに偏っている
観察としては悪くありません。むしろよく見えている方です。そこで私は聞きました。
「自主練習を提案していない。その原因は何だと思う?」
一つの仮説で満足していないか
彼が最初に出した仮説に少々驚いてしまいました。彼の仮説は「客観的な評価(ROMやMMTなど)を取っていないから、ではないか」というものでした。可能性としてはあります。厳しい言い方かもしれませんが、このような仮説が一つしか出ないようでは、部下を導くのが難しいのも無理はありません。私から他の仮説も伝えてみました。
例えば
・たまたまそうだっただけかもしれない
・提案しようとしたら病棟側に止められたのかもしれない
・そもそも患者に向き合う姿勢に問題があるのかもしれない
・単純にやる気が出ていないのかもしれない
・どんな自主練習を提案していいか思い浮かばないだけかもしれない
原因を一つに決め打ちした瞬間、対応の選択肢も一つに縮んでしまいます。A君が優秀であるばかりに、彼の傾向として、どうしても「彼らはできていない」という色眼鏡でみてしまいます。いわば「マイナス思考」の解釈です。しかしそうとも限らないのが通常です。
反証作業ができていなかった
A君に欠けていたのは、自分に対する「反証作業」でした。
「自分はこう思う」という考えに対して、「それをどうやって証明できるだろう」と自分に問い返す。反芻し、反証してみる。それに対して、また自分なりの根拠で答えていく。根拠がなければ、根拠を確認しに現場へ戻る。
これは理学療法の臨床推論とまったく同じ構造です。そう伝えると、彼は目から鱗が落ちたような顔をしていました。そして自分自身で、こう気づいたのです。
・実は、今まで反芻や反証をしたことがなかった。
・自分の考えを肯定するような情報ばかり集めていた。
・意見を通したい、あるいは誰かに論破されたくなくて、自分の考えを強化する情報ばかり探していた
これは以前の記事にも書きましたが、まさに確証バイアスというものです。本人はそれと気づかずにやっていました。なぜなら、それは彼なりの生存戦略だったからです。
確証バイアスとの付き合い方
私は彼にこう伝えました。
・確証バイアスは誰もが持っていることでありごく自然な心理的傾向であり、それ自体を責める必要はない
・A君の場合はそれが「相手を説得したい」という欲求から強く出てしまっている
・だからこそ、これからは逆に、自分の意見を否定する意見を自分で持ってくる。それに対して自分なりに反証してみる。
・それがA君の言葉に説得力をもたらす、ということ
彼は感極まっていました。
しかし、ここで私自身にも心理バイアスがあったことを反省しなければなりません。つまり、私の経験則に基づいて彼の仮説を「そうではないだろう」と初めから否定的に捉えていました(これをアンコンシャスバイアス=経験がある専門家の意見や行動が正しいと思い込んでしまう認知の偏り、と呼びます)。A君の仮説は検証可能です。カルテを見れば一発でわかります。部下に反証を求める以上、私自身も自分の直観を疑う必要がありました。
例えば、あるスタッフが患者マネジメントをできていないという現象があったとします。
仮説①「体調が悪いだけかもしれない」 → 反証:「仕事以外の時間は元気そうだし、食事もしっかり摂れているし、笑顔も多い。モチベーションの問題ではなさそうだ」
仮説②「そもそもマネジメントのやり方がわからないのではないか」 → 検証:本人に直接聞く。「どんな風にマネジメントしてる?」「何を大事にしてる?」「普段どんなことを考えてる?」
こうして一つずつ潰していくと、見えていなかった物足りない部分が浮かび上がってきます。
手順はシンプルです。仮説①を立てる → その仮説を否定する視点を自分に投げかける → 最初の意見が本当に成り立つか、材料を集めて評価する。地味で面倒な作業ですが、これができるようになると仕事の精度は確実に上がっていきます。面倒だと思われがちですが、逆にこれをしないと問題がずっと残り続け、永遠とまた同じような現象が起こり続けます。その方が将来的にもとても面倒になるということを覚えておいてください。
彼に課した2つのこと
①自分の考えに対して、自分自身で批判的に反証してみること
②その反証に答えられればそれでいい。答えられなくても、確かめる作業に移ればいいということ
「なぜ」を一つで終わらせない。これを繰り返すことで、解決策は着実に広がっていきます。そしてそれは、目の前のスタッフ一人を理解する力にも、病棟全体の課題を見抜く力にも、そのままつながっていきます。私もそうだったのですが、最初は誰もうまくいきません。というか何をすればいいか、何がいいのかよくわからないだろうと思います。しかしそれを続けていくと、自分のやり方を変えることで部下が変化していくのが少しずつ感じ取れるようになります。実は、周りが変わったのではなく、自分が変わることで世界の見え方が変わったのです。見え方が変わると何が起こるか。それは、
世界をまっすぐみることができる
こうして初めて本質に沿ったマネジメントができるようになるのです。少し難解かもしれませんが、日々の小さな変化がもたらす世界の見え方の変わりようは凄まじいものがあります。人生が変わってしまうと言っても過言ではありません。
少々話が脱線しました。もし部下のマネジメントで悩んでいる人はぜひ、A君に課した2つのことを実践してみてください。

