【理学療法士ー中級編ー】片麻痺患者さんの寝返りを楽にする ―寝返り動作編―

動作分析

なぜ片麻痺の寝返りはあんなに大変なのか

片麻痺の患者さんにとって、寝返りは本当に難しい動作の一つです。その理由について今回は話していこうと思います。読み終えたら評価、治療のアイデアが増えると思いますし、患者の寝返り動作の見え方が変わります。

かつての私は、自立して歩かせたいということばかり考えて、寝返り動作を軽んじていました。ある担当した患者様が歩行を獲得したのち、部屋に訪れた時に何度も何度も起き上がるのに失敗していました。さらには麻痺側の上肢が連合反応を強め、肩の痛みも生じていました。慌てて起居動作にアプローチしましたが、その時は単なる構成要素を治療していただけで全く改善させることができませんでした。今回は、構成要素の整理とさらに寝返り動作を変えていくためのアプローチの流れについて書いてみました。

まず、寝返り動作というのは体幹の筋活動、しかも両側の活動として使わなければならないことが第一に挙げられます。にも関わらず片麻痺の患者さんは体幹筋が低緊張になっている方が多く、これがさらに難易度を上げる理由です。独力で立てる、または歩ける患者でも起き上がるのが大変な方がいますよね。それは立位よりも起き上がりには体幹の筋活動がより必要になるからです。

そのメカニズムと治療のアイデアについて述べていきます。

麻痺側に寝返る方が非麻痺側に寝返るよりも難しい!?

ある論文によると非麻痺側方向と麻痺側方向を比較すると、麻痺側に寝返る方が有意に時間を要するという結果が示されています。私の経験でも実際の患者の臨床像とこのデータは完全に合致すると思います。これにはいろんな理由があると思いますが、理由には①麻痺側の肩甲骨周囲の低緊張により、寝返りの際に後ろに戻ってしまう方向に力が加わること、②非麻痺側の体幹や上下肢の過剰な努力によって寝返る際の支持面として変化を受け入れづらいこと、が大きく挙げられると思います。

そのため麻痺側を治療するのは当然ですが、下側になる非麻痺側も同時に過剰に頑張っている部分は脱力していく必要もありますし、脱力できないと麻痺側の筋緊張は高まってきません。寝返りは全身を見る必要がある動作なのです。

寝返りを構成する3つの要素

【よくあるシッパイ例1】丸太のようにゴロンと転がる(体軸内回旋の欠落を疑え)

 寝返りに重要な要素の1つ目は「体軸内回旋」です。聞いたことがある人も多いと思いますが、説明するとなると意外と難しいのではないでしょうか。つまり頭頂部から足にかけて身体のおおよそ中心を通るイメージの線である正中軸を中心に、左に寝返る場合、右側の体が上に、左側は後ろに引かれます。転がるというよりその場で回転すること、これが寝返りの核心です。それがないと丸太様になってしまい、捻りが生まれずつまりより労力が必要になります。私もかつてはこの『回旋』を軽視していたばかりに、楽な寝返りを提供させられていませんでした。

この回旋を生み出すには、脊柱一つ一つの細やかな回旋が必要で、多裂筋のような脊柱深部のローカルマッスルの働きに加え、外腹斜筋・大胸筋・広背筋といった表層のグローバルマッスルの活動も欠かせません。ご存知の通り、ローカルマッスルとグローバルマッスル、両方が協調して初めて体軸内回旋は生まれます。

 片麻痺の患者さんはこの回旋が非常に苦手なので、どこが欠けているのかを見極める必要があります。ローカルマッスルは直接触れられないので、脊柱が一つずつ細かく動かせるかで評価します。つまり患者の骨盤から少しずつ上に手を動かして脊柱が一つずつ屈曲、伸展、回旋運動が出せるかどうかを評価します。徒手的に動かせるかどうかで構いません。一つずつ腰椎の動き、肋骨の挙上、下制を誘導します。繊細に細かく動かして、少しでも動かせられればOK、全く動かない場所が必ずありますのでそこを探しましょう。

またグローバルマッスルは過剰に収縮している場所もあります。筋緊張を適度の落として動きやすくするためには過剰な緊張の筋を伸長してはいけません。むしろ一度短縮させる必要があります。例えば大胸筋の筋緊張が高まっている場合、肩甲骨から上腕を胸骨部なら胸骨、鎖骨部なら鎖骨の方へまず近づけ、近づけた分だけ元に戻します。それを数回繰り返すことで徐々に筋緊張は減弱し、最初よりも大胸筋の長さを確保できてきます。どの筋も同様で一度短縮位にしてから徐々に伸ばしていくことが肝要です。背景には錘外筋線維を緩めることでIa線維からの過剰な入力並びに単シナプス反射によるα運動ニューロンの発火を抑えているのことが考えられます。

【よくあるシッパイ例2】非麻痺側の手でベッド柵を力任せに引く(肩甲骨のブレーキを疑え)

多くの患者さんが寝返り、また起き上がる際にベッドの端をつかんで努力的に動こうとしてしまいます。全PTが頭を悩ませる経験をしていることだと思います。ここでは両側の肩甲骨が前方突出することの重要性をお伝えします。結論から言うと、下側の肩甲骨が外転することで胸郭が下に潜り込み、上側の肩甲骨がプロトラクション(外転)することで回転が生まれます。寝返る方向と反対、つまり麻痺側の肩甲骨にアプローチする人は多いですが、過去の私同様、非麻痺側の肩甲骨を見ている人は少ないのではないでしょうか。ですが意外と非麻痺側の肩甲骨も正常に前方突出できていないケースが非常に多いのです。

筋活動としては、前鋸筋の求心的な活動、それに拮抗する僧帽筋下部線維・広背筋・菱形筋の遠心的な活動、さらに前側では大胸筋の遠心的な活動と外腹斜筋の求心的な活動が必要です。これらの活動の背景には、腹横筋・腹斜筋・多裂筋、そして横隔膜や骨盤底筋といったコアスタビリティが働いていることが前提になります。

肩甲骨がしっかり外転すれば、体は円柱型・船底型に近づき、寝返りやすくなります。逆に肩甲骨が落ちてしまうと、そこがブレーキとなり、その方向への寝返りが難しくなります。

片麻痺の患者さんで多いのが、肩甲骨の挙上、それも両側です。肩甲挙筋と前鋸筋はとても仲が悪い筋で、どちらかが働くともう片方は働かなくなります。具体的なアプローチは、まず外腹斜筋の起始のうち触れやすい第5から10肋骨の前面に手を置き、呼気に合わせてに向かって圧を加えます。つまり肋骨を下制していきます。その位置で肩甲骨を内外転していきます。内転しない場合が多いですが、その時は上述した方法で大胸筋を長くしていきます。

【よくあるシッパイ例3】頭が重そうで、全身を伸展位で突っ張ってしまう(ヘッドコントロールの低下を疑え)

寝返りで最初に動くのは、実は「目」です。やってみるとわかるのですが、寝返る側と反対を目で見ながら寝返るのはとても難しいですね。眼球運動が向かう方向を見て、それに頭部が立ち直り(ヘッドコントロール)、頭部が回旋・屈曲することで、胸郭、骨盤、下肢へと運動連鎖が起こります。これは脳幹レベルの立ち直り反応ですので、それくらい目の動きは重要で、かつ全身の運動のきっかけになるということです。この時に頭を枕に押し付け伸展位で突っ張るように寝返る患者さんも多くいます。これをヘッドコントロールとコアスタビリティへのアプローチで解決していきます。

ヘッドコントロールが成立するには、2つ要素があります。一つは後頭下筋群による後方からの頭頸部の安定です。眼球につく6つの外眼筋は頭蓋骨、眼底につきます。正確に物を見るには外眼筋は非常に精密に働く必要がありますので、起始となる頭部は十分に安定している必要があります。そのために後頭下筋群が働くのです。片麻痺患者は寝ている時も頸部が伸展位をとることが多く、すなわち当筋群は短縮位で働きにくくなっていることが多いです。まずはそこに手を当てまずは内側(さらに短縮位)に、次に外側に向かってストレッチしていきましょう。徐々に頭部が軽く動かせるようになるはずです。そこから眼球を上下左右に動かしてもらうと頭部と眼球の協調運動の改善が得られます。健常な人でも長時間パソコン作業をしていると首を動かしたくなりますよね。これは目をたくさん動かすと同時に後頭下筋群も使っているからなのです。

もう一つが頭長筋と頸長筋による前方からの頭頸部の安定です。頚椎から胸椎の前面についている筋なので直接触れることができませんが、頸椎が一つずつ屈曲させられるかどうかで評価します。具体的には患者の頭部側から頭部を持って少しずつ頭部を屈曲させていくことで頸椎が一つずつ屈曲していくかを評価します。途中で重たくなったらそこの位置から頸椎が動かなくなる場所になります。

もちろん前提には胸郭が背面でしっかり支持基底面となり、腹筋群が働くことで、頭部が空間で自由にコントロールされる必要があります。つまりコアスタビリティによる体幹の安定性が前提にあって、初めて頭部の自由度が生まれるのです。

かつての私は頭部や眼球運動への評価、アプローチは考えたことがありませんでした。どちらかといえば体幹や肩甲骨に目が奪われていたからです。しかしヘッドコントロールの重要性を知ってからは、問題を抱えているケースが非常に多いことに気づきました。目は運動のプランを作る初期段階の情報収集器官です。自由に空間を認知できるようになることでその後の運動プランが変わっていくことも不思議ではありません。

臨床での見方とハンドリング

そして最も重要なことは、これらの構成要素が同調しながら動いていくことを誘導します。どこをハンドリングするかは個人差がありますが、私は重度症例であればあるほど中枢部特に肩や骨盤帯を持つことが多いです。具体的なハンドリングのポイントとしては、構成要素のブレーキ(大胸筋や後頭下筋群の過緊張)を外したら、次はそれらを繋いでいきます。セラピストは非麻痺側の体側に位置し、そこから患者さんの視線を誘導した直後(この時は『こちらに横向きになりましょう』でOK)、声かけのタイミングと同時にセラピストの一方の手は第7〜10肋骨前面にコンタクトして下内方へ誘導しつつ、もう一方の手は麻痺側のASIS(上前腸骨棘)にコンタクトし、胸郭の回旋に対して骨盤がわずかに遅れてついてくる『体軸内回旋のタイムラグ』を徒手的に作り出します。途中にかける声かけは『頑張って回って』ではなく、『背中からお尻へと体重が移るのを感じて』と伝えましょう。『動くこと』よりも『感じること』を優先します。

これを数回繰り返し、動き方がスムースになったら、こちら側の誘導する力を少しずつ減らしましょう。例えば外腹斜筋の遠心性収縮を指先で感じ取れた瞬間に誘導の力を10から5、5から2へと徐々に減らし、最後は0、つまり本人だけでやってもらいます。この過程(ハンズオンからハンズオフへ)での『患者の反応の遅れや抵抗』自体が、感覚システムのエラーを見つけ出すセンサーとなります。

もしこのハンドリングでスムーズな体軸内回旋が起きない場合、構成要素①〜③のいずれかのブレーキが外し切れていない証拠です。無理に回そうとせず、再度、大胸筋の短縮や後頭下筋群の過緊張、肩甲骨の前方突出の機能不全などを疑い、ミクロの評価に戻ればいいのです。あるいは『感覚入力の知覚(身体図式の構築)』自体が破綻している可能性を疑います。無理に回そうとせず、まずは大胸筋等の短縮を再評価し、それでも変わらなければ、視覚や体性感覚のフィードバックが脳で正しく処理されているかどうかという感覚系の評価へ戻るべきです。そのためにもハンドリングを通じて肋骨やASISへのコンタクトを用い、姿勢定位のための固有受容覚入力(感覚フィードバック)として患者の身体図式を書き換えていることを求めているのです。

動きが整ってくると、寝ている姿勢そのものもリラックスできてきます。大切なのは表情を見ながら「楽に動けているかどうか」を確認しましょう。患者さんは「頑張らないと寝返れない」と思い込み、非麻痺側の手足で無理に頑張ろうとしがちです。「そんなに力はいらない」ということを、ハンドリングや口頭指示を通じて伝えてあげてください。それを繰り返していくことで、動きは大きく変わります。楽に寝返れることに気づいて感動してくれる患者さんもとても多いので、ぜひ臨床で試してみてください。

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