以前、腰痛の原因の一つの【スウェイバック姿勢】についてお伝えしました。今回はもう一つの原因になりやすい【足】についてお話しします。こちらも参考にしていただければと思います。
理学療法士として働き、18年超。数々の腰痛の患者を見てきて、足が原因で腰痛になっている人がとても多いということを実感しています。なぜ足が原因で腰痛になるのか、そしてどうすれば腰痛が治るのか、この記事を読んでいただき腰痛改善のお役に立てれば幸いです。
足を強くして腰の負担を減らそう
まず初めに、なぜ足が腰痛の原因になる可能性があるのかをお話します。以前の記事でもお伝えしたように、人体は積み木のように骨が積み重なってできています。足の骨から脛(すね)の骨、太ももの骨、骨盤と続き、一番てっぺんには頭蓋骨が乗っています。すべての骨がジェンガのようにうまくバランスを取っています。例えばジェンガであれば一つが左にずれたら、その上は右にずれることで帳尻合わせをしないと倒れてしまいます。人体も同様でそれぞれの骨がうまく帳尻合わせをしながらバランスをとって成り立っています。もし一番下にある足の骨がずれていたり、傾いているとしたらどうでしょう。その上の骨はバランスを修正するために本来の位置とは違った位置になくてはならなくなります。つまり膝や股関節、腰に負担がかかり続けることになります。これが腰痛を引き起こす一つの要因になってしまうのです。
今回は【足】に注目して、皆さんの今の足の状態を【評価】し、もし問題がありそうなら最後にお伝えする治療法を実践していただき、腰にかかる負担を取り除いていきましょう。以前もお話ししましたが、ここでお伝えする内容は即効性がある治療法ではなく、徐々に蓄積された腰痛を徐々に治していく方法です。1日で治る治療法は1日で戻ってしまいます。気長に治して、腰痛のない生活を手に入れましょう。
腰痛の原因が足にある理由
意外と知らない足の役割
普段あなたは当たり前に歩いたり、立って生活しています。しかし、あなたは足の役割についてあまりご存じないかもしれません。足は地球上で生活する上で、一番大切な部分と言っても過言ではありません。ヒトと他の動物との特徴の違いに【2足直立】というものがあります。2足直立とは2本の足で立ったり、移動するという意味です。犬や猫は4本で歩きます。ヒトが起きているときに地球と唯一接する場所、それが足です。
ここであなたに質問です。あなたは砂利道と平坦な道、少し傾いている道を歩くときに、何か意識をすることはありますか?歩き方を変えたするでしょうか?おそらく何も意識したり考えたりせず普段通り通り抜けているのではないでしょうか。しかし少し考えると不思議です。もし少しでも床が傾いていたら、それに応じて足の形を変えないとバランスは取れないはずです。身体が傾いてしまいますから。砂利道は平らな道より凸凹してますから、体全体がグラグラしてもおかしくありません。にもかかわらず私たちは何も意識はせずに自然と歩くことができます。その理由は【足が地面の形に合わせて自動的に形を変えている】からです。この【自動的に】というところがとても大切になります。
なぜ足は自動的に形を変えることができるのか

足の中に骨がいくつあるかご存じですか。足の骨の数は、片足あたり28個、両足合わせると56個の骨があります。これは人体の全骨格(約206個)の約1/4を占めています。くるぶしより先にあるたった20数センチの小さな部位に体の1/4もの骨が密集しているということはそれだけ重要な部位だと思います。
骨は硬いブロックのようなものですから骨自体は形が変わりません。変化できるのは骨と骨の継ぎ目、つまり関節です。骨の数が多ければ多いほど関節の数も多くなるので、いろんな形に変わることができます。またブロックとブロックの継ぎ目には必ず靭帯というバンドがついて離れないようになっています。これは自分の意思では動かせないものです。そして、足の形を意識的に作り出せるものが筋肉です。そしてその筋肉を司っているのが神経になっています。難しくなってきたので、まとめると足を自動的に形を変えてくれる要素は、以下の4つになります。
- 骨:硬いブロックの役目
- 関節・靭帯:ブロックとブロックの継ぎ目と固定するバンド
- 筋肉:足の形を形成する力を生み出す
- 神経:筋肉を働かせる司令塔
画鋲を踏んで飛び跳ねる理由
少し話がそれますが、歩いている最中に気づかず画鋲を踏んだとき、あなたの足はどうなりますか?おそらく痛みを感じると同時に足を跳ね上げているのではないでしょうか。しかも意識せずに勝手に足が持ち上がります。これは実は【反射】と言って神経が働いているのです。もし頭で考えていて意識的に足を動かしていては画鋲の針は足の中にまで食い込んできてしまいます。それを防ぐために人体は多くの【反射】が備わっています。
つまり何が言いたのかというと、足の裏には数多くの神経が集まっているということです。先ほどお話しした痛みを感知する神経や温度を感じる神経、触れているものを感知する神経など様々な神経が備わっています。その中でも【体重が足のどこにかかっているかを感知する神経】が腰痛に影響を及ぼす可能性があると私は考えています。
前述したように、足は接地している面に合わせて形を変えることができます。そのためには足の裏にある神経が、床の形状や自分の体重がどのあたりにかかっているかを感知する必要があります。床の形状がわかるから、それに合わせて神経や筋肉が働いて足の形が変わる、というメカニズムになっています。
自分の足を確かめてみよう
もし足の形が自動的に変わることができなかったらどうでしょうか?歩くたび、立つたびに膝や股関節、腰に負担がかかることは間違いありません。前置きが長くなってしまいましたが、まとめると【形を変えることができる足を作って腰痛を改善しよう】ということが今回のテーマになります。では、皆さんの足が腰痛を引き起こす可能性があるかどうかをこれから確かめましょう。そして足の状態に合わせた治療法を次項でお伝えします。症状によって治療法が違うので、症状ごとにどの治療をすればいいか記載しておくので、自分の足の状態がわかったら治療法に飛んで見てみてください。
ちなみにこの記事もとても勉強になるので参考にしてください👇
https://www.nikkei.com/nstyle-article/DGXMZO47877030X20C19A7000000/
アーチがあるか確かめよう
ヒトの足はアーチと呼ばれる弓状の構造でできています。アーチには内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチという3つのアーチがあります。この3つのアーチが先ほど述べた変化できる足、強い足、柔軟な足を作り出します。実際、ヒトの何十キロという体重を小さな2つの足だけで支えていることが結構不思議だと思いませんか?ある程度の時間なら足が辛くなって立てなくなるということはありません。これはこの3つのアーチのおかげなのです。

なぜアーチがあることが支えることと関係するのでしょうか。それは【トラス機構】という力学が働いているからです。物理学的な難しいことは置いておいて、足の裏には【足底腱膜】という縦長の靭帯が前後にまたがってついています(下図の足の裏にある紐状の靭帯)。体重がかかるとこの足底腱膜が引っ張られ、足の骨が強固に固定されます。そのため足の骨が下に落ち込まずに体重を長時間支えることができるのです。


皆さんの足のアーチを確かめてみましょう。やり方は簡単で、足を濡らし、その後足跡が残るようなものの上に乗りましょう。段ボールなどで構いません。皆さんの足跡は下の図のどの形になってるでしょうか。ちなみにaが正常、bは凹足(おうそく)、cは開帳足(かいちょうそく)、dは扁平足(へんぺいそく)と呼ばれます。

・aの方で腰痛がある方は、もしかすると足ではない部分に問題を抱えている可能性が高いと思われます。他の記事でお伝えしている足以外の部分へのアプローチを参考にしてみましょう。
・bの凹足だった方は、アーチが高すぎます。アーチが高いと何が起こるかというと、足自体がとても硬くなり、床の形状に合わせて足の形が変わりにくくなります。その結果、立ったり歩く度に衝撃を吸収できずに膝や腰に負担が加わり続け、痛みが出てしまうことになるのです。→治療①へ

・cの開帳足は横アーチという足の前部分にあるアーチが落ちている足のことを指します。じゃんけんでいうパーにような足になっている状態です。これは足が支える力が弱くなっているため、バランスが不安定になりやすく、他の関節に負担がかかる可能性があります。→治療①・③へ
・dは扁平足で、下の図Ⅰが正常で、ⅡからⅣになるにつれてより重度の扁平足になります。これは縦アーチがなくなっている証拠であり開帳足と同様、足が支える力が弱っていることを表しています。→治療①・②・③へ

足関節・足部の硬さを確かめよう
次は足の柔軟性があるか確かめましょう。
足関節が下図のように曲がりますか?直角を基準にして20°ほど上に上がれば正常です。それ以下の場合は足関節が十分に可動していないことになります。→治療

次に中足骨という骨を指で上下に動かしてみてください。5つともすべてよく動きますか?硬さを感じる場合は足部の中に硬さがあるということになります。→治療①・④へ
足の強さを確かめよう
片足で立った状態で20回踵を上げることができますか?20回以上できれば正常、10回以上できれば少し筋力が低下している、10回以下はかなり筋力が弱っていると思われます。→治療④へ
理学療法士が教える強い足の作り方
治療①足内在筋のマッサージ
足の中には下の図のようにたくさんの【足内在筋】と言われる筋肉たちがあります。この筋肉は足のアーチを作ったり、関節を固定したり、足の体重のかかり具合を感知する役割があります。歩いたり立つときに気付かぬうちに非常に役立っています。これらの筋肉を踵から足の指のほうにかけて手でマッサージしていきます。少し痛いかもしれませんが、この筋肉をしっかり伸ばさないと先ほど伝えた役割を果たしてくれません。もしマッサージが難しい場合は座った状態でテニスボールを踏みつけて転がすだけでも構いません。とにかく足の中の筋肉たちを動かして伸ばしていきましょう。

治療②タオルギャザー

これは、【足内在筋】と【足外在筋】の両方を鍛えるタオルギャザーというトレーニングです(足外在筋はふくらはぎや脛からついている筋肉のことです)。これにより縦アーチを作っていきます。
方法は、椅子に浅く腰掛けます。床はフローリングなど滑りやすい場所を選んでください。タオルを床に置いて、しっかりと伸ばします。タオルの端に踵を置きます。踵を床に押しつけたまま、指を使ってタオルを手前に手繰り寄せます。手繰り寄せたらタオルを離し、また手繰り寄せることを繰り返します。これを10回連続で繰り返します。リラックスしながら、これを3回繰り返します。地味な練習ですので、手繰り寄せるまでの時間を測ったり、どなたかと競い合ったりすると楽しみながら練習できます。
治療③ドーミング(ショートフットエキササイズ)

これは【足内在筋】だけを強化するドーミングというトレーニングです。ショートフットエキササイズとも呼ばれ、その名の通り短い足を作るというものです。短い足というのはアーチがあって甲が少し高い足のことです。やってみると少し難しいと感じるかもしれませんが、時間をかけて習得しましょう。方法は、足を床に平らにつけます。爪先で床を押しながら小さな拳を作るようにします。図のように足をドーム型にするイメージです。この時注意するのは、足の指はまっすぐにすることです。曲げてはいけません(ここが結構難しい!)。
治療④カーフレイズ

これはふくらはぎの筋肉を鍛えるトレーニングです。床に立った状態で踵をゆっくり上下に動かします。バランスを崩さないようにテーブルに軽く手を乗せても構いません。4秒かけて最後まで踵を持ち上げ、その後4秒かけてゆっくりと踵を下ろします。この時、つま先の下にタオルを入れて、床に踵がついたときに足首がより曲がるようにしてもいいと思います。回数はその人それぞれなので、一概には言えませんが、最終目標は【片足での踵上げが20回できること】です。痛みがない範囲で自分なりの回数を決めて、慌てず達成していきましょう。
プロメテウス解剖学アトラス.医学書院.2011
カパンジー.カパンジー機能解剖学Ⅱ 下肢.医師薬出版株式会社.2009
D.A.Neumann.筋骨格系のキネシオロジー.医師薬出版株式会社.2012
小林吉之.足部・足関節のなりたちーバイオメカニカルな観点から.PTジャーナル.2011
New Mexico Foot Ankle Institute
最後に
3週間を目安に自分の足にあった治療法を継続してみましょう。痛みがある場合は無理せず中止してください。3週間実施後、腰の痛みの数値化をして、変化があったかを確認してください。もし変化があれば腰痛の原因は足にも要因があったということがわかります。自分の腰痛の本当の原因がわかれば、【腰痛を自ら対処できる】ということになります。これは体だけでなく心にとって、とても大きな財産になります。自分だけの治療法を見つけましょう。