昨日私は、以前書いた記事に登場したリーダー職である部下B君(リーダー経験6年目)を厳しく指導しました。
発端は、彼の部下である新人スタッフが、ことごとく患者さんからクレームをもらっていること。しかも、それが何度も繰り返されているのです。
私はB君に聞きました。 「そういうクレームが出た時、あなたはどう対応してるの?」
彼の答えを聞いて、私は頭を抱えました。彼には、リーダーとして致命的な「2つのシッパイ」があったのです。今日は、現場を預かる全ての中間管理職に向けて、「クレームの火種」をどう消すかについてお話しします。
シッパイ①:現場を見ない。「一人の言葉」に真実などない
B君の最大の失敗は、「現場に足を運んでいないこと」です。
クレームが起きた時、彼は新人から話を聞いて、指示だけで対応を終わらせていました。例えば、「患者に謝っておいて」「病棟の看護師さんにも経緯を伝えておいて」などです。患者さんがリハビリをしている現場を見に行くことも、直接患者さんの声を聞くこともしていない。あまりにも情報収集が薄すぎるのです。
ここで今日のテーマです。 「人の言葉を信じるな。自分の目と耳を使って確かめろ。」
当事者である一人の人間(部下)から発せられた言葉だけに、真実が隠されていることなど絶対にありません。
心理学で「自己奉仕バイアス(失敗を他人のせいにする無意識の傾向)」と呼ばれるように、人は誰しも、無意識に自分を守るように事実を歪めて報告してしまう生き物だからです。部下は嘘をついているのではなく、脳の防衛本能がそうさせているのです。
だからこそ、リーダーたるもの、部下の報告はあくまで「一次情報」とし、必ず自分の五感で現場の空気を確かめなければなりません。
人が自分を守る時に働く心理は
- 自己奉仕バイアス(Self-serving bias)
意味:「成功したのは自分の実力、失敗したのは他人のせい(環境や運のせい)」と無意識に思い込む心理的傾向。現場での発動: リハビリが上手くいった時は「自分のアプローチが良かった」と思うのに、クレームが起きた時は「あの患者さんが怒りっぽいからだ」「今日はたまたま機嫌が悪かったからだ」と、原因を自分以外(患者側)にすり替えて報告してしまう。
- 防衛機制の「合理化」(Rationalization)
意味: 心理学の巨匠フロイトらが提唱した概念。自分の失敗や都合の悪い現実に対して、もっともらしい「言い訳(理屈)」を無意識に作り出し、傷つかないよう心を守るメカニズム。現場での発動: 「私がコミュニケーションをミスした」と認めるのは心が痛むため、「でも、先輩から言われた通りにやったんです」「あの状況ではああするしかなかったんです」と、自分を正当化するロジックを瞬時に脳が作り出します。
- 認知的不協和(Cognitive Dissonance)
意味:「自分は一生懸命やっている(良いセラピストだ)」という自己評価と、「患者からクレームが来た」という事実の間に矛盾(不協和)が生じた時、その強烈なストレスを消すために、脳が勝手に事実の解釈を歪めてしまう現象です。現場での発動: ストレスから逃れるため、「あの患者さんは、誰が担当してもクレームを言うクレーマーなんだ」と自分の中で事実を書き換え、それを真実としてリーダー(B君)に報告してしまう。
良い悪いということではなく、人(自分も含めて)は無意識にこのような心理になりやすいことを前提として、他人からの報告を全て鵜呑みにせず、いい意味で疑いながら関わらないと無能なリーダーになります。ましてや新人など常に不安と闘いながら日々働いているスタッフであれば尚更のことです。
後々、B君に状況を再度確かめたところ、案の定、患者さんがクレームを起こした理由と新人が報告した内容にはズレがありました。両者の意見を知った上で対応しなくては、ことはさらに悪化するだけです。
でもズレていたらどちらを信じれば良いかわからない、、、と思いますよね。B君も思っていたと思います。しかし、どちらの言っていることが正解かということは本質の問題ではないのです。お互いがそのように「思っている、感じている」ということだけが真実です。それぞれに対してリーダーは対処するのです。クレームを起こした患者の心理にはどんなことが潜んでいるのか?決してサボっているわけではないがコミュニケーションが苦手な新人の今の気持ちはどのようなものなのか?それをB君にも考えてもらいたいのです。
シッパイ②:「人と人」の化学反応を予測できていない
もう一つの欠陥は、「予見力」のなさです。
件の新人スタッフは、お世辞にもコミュニケーションが得意なタイプではありません。管理職であれば、少し見ればその特性は把握できます。そもそも管理職内では、その新人の短所については全員で共有していました。一方で、患者さんの中には「少し気難しい方」や「怒りっぽい方」も当然いらっしゃいます。
この「コミュニケーションが苦手なスタッフ」と「気難しい患者さん」を組み合わせたらどうなるか? 火を見るより明らかな「爆発(クレーム)」のサインです。
リハビリは一人でやるものではありません。患者さんとセラピストの「人と人」が合わさって初めて成り立つ作業です。
- 理屈っぽいセラピスト × 感覚で動きたい患者さん = ミスマッチ
- モチベーションの低い高齢男性 × 愛嬌のある若い女性スタッフ = 大成功
人間ですから、こういう相性は確実に存在します。 スタッフ単体の性格を見るのではなく、「この人とこの人が合わさった時に、どんな化学反応が起きるか?」を事前に予測し、先手を打つ。それができないから、物事が起きてから「対症療法」で後手後手に回ってしまうのです。
「失敗させる」のもリーダーの仕事。だが「無策」は罪
誤解しないでほしいのですが、新人スタッフが失敗すること自体は、全く悪いことではありません。私だって数え切れないほどの失敗をしてきましたし、それが彼らの成長の糧になります。
私がB君に注意したのは、「なぜその事態が起きたのか全く理解できておらず、次どうすればいいかも分かっていない(無策である)」という点です。
優秀なリーダーは、爆発(クレーム)を事前に予測した上で、あえて挑戦させます。 「お、この組み合わせはちょっときついかもしれないな。よし、まずは挑戦させてみよう。……あ、やっぱりつまづいたな。じゃあ、今からフォローに入ろう」
この「予測された失敗」と「想定外の失敗」は、天と地ほど違います。
部下の言葉を鵜呑みにせず、現場を見る。人と人の相性を予測し、先手を打つ。 リーダーの皆さんは、問題が起きてから慌てる「消火係」になっていませんか?
もし同じような悩みを抱えている管理職に伝えるアドバイスは一つだけ。
とにかくトラブルが起こったら、それに関わる全ての人に話を聞きなさい
ただそれだけです。一朝一夕には上手くなりません。ですが、繰り返していくことで、その経験があなたに蓄積され、確実に予見力が身に付いてきます。私も少しずつですが、現場で生じることならある程度のことは予見できるようになりました。最近も、「なぜこのことが前もって起こることがわかっていたのですか?」と他のリーダーから言われました。もちろん超能力者のように全てのことがわかるわけではありませんし、予見が外れるも多々あります。案外、人は外れたことに関してはあまり覚えていなくて、当たったことだけ「あの人、予言していたな」という印象だけが残るようです。そのため管理職間で、私が予知能力者みたいな扱いをされることが多々あります笑。
予見ができると楽になります。物事が見えていると、選ぶことができるからです。トラブルを事前に回避することも、あえて起こしてみることも。
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