「先生は私の話を聞いてくれない」 そう言って患者さんがリハビリを拒否する。担当の新人君は困惑している。「自分は間違ったことはしていない。一生懸命やっているのに、なぜ……?」
これは、現場で頻発する「マトリックス①:正論と感情のミスマッチ」による爆発です。
1. 両者の心理背景:噛み合わない「鎧」と「渇望」
まず、この戦場にいる二人の心理をひも解きましょう。
新人PT君:承認欲求と不安が生んだ「正論の鎧」
やる気があって真面目、特に男性の新人に多いこのタイプは、強い承認欲求を抱えています。ちなみに新人の頃の私がそうでした。
- 「自分のアプローチは間違っていない」という自己正当化バイアスにかかりやすい。
- その裏側には、「成功体験がない」という強烈な不安が隠れています。 不安だからこそ、教科書通りの正論という「鎧」をまとい、効果を出すことに執着します。結果として、患者を「治すべき対象(モノ)」として見てしまい、表情や声にまで意識が回らなくなるのです。
患者さん:若さへの不安と「拒絶」の痛み
患者さんから見れば、担当が若いというだけで根源的な不安があります。私だって、若そうな医師と年配の医師だったら後者の方がなんとなく信頼できる気持ちになります。もちろん一概には言えませんが、それだけ経験というものが持つ効力はあるということです。
- 「この子で大丈夫かしら?」という不安がある中で、一方的に正論を押し付けられてしまう。
- 「私の話を聞いてくれない=自分という人間を否定された」と感じてしまう。 正しいことを言われれば言われるほど、患者さんの心は離れ、不満が蓄積していきます。
2. リーダーが授けるべき「3つの処方箋」
この膠着状態を打破するために、私が行うデバッグは以下の3つです。
① 「喉を見ない医者」の例えでメタ認知させる
彼には「客観視(メタ認知)」が必要です。私はこう問いかけます。 「君が喉が痛くて病院に行った時、医者が喉も見ずに『これは風邪ですね』と薬を出してきたらどう思う? 信じられる?」 「今の君は、それと同じことをしているかもしれないね」 厳しい言葉ですが、「患者の訴えを聞くことは、評価そのものである」という事実を叩き込みます。
② 治療は「相互作用」だと教える
「良くなるかどうかは、セラピスト一人の腕にかかっている」という思い上がりを捨てさせます。 リハビリはセラピストが「やってあげる」ものではなく、患者さんと共に起こす相互作用です。主役はあくまで患者さんなのです。私たちは「お手伝い」でしかないという立ち位置を理解させます。
③ 「臨床推論」と「数値化」で正論を使いこなす
彼が持っている「正論(理論)」自体は悪くありません。それを「独りよがり」にしないために、推論を立て、結果を数値化・客観化して振り返る癖をつけさせます。「なんとなく正しい」ではなく「結果がこう出たから正しい」と、自分を客観的に評価させるのです。
3. リーダーの「防衛線」:患者へのフォロー
新人PT君を指導する一方で、リーダーは患者さん側の防衛線も守らなければなりません。
- 定期的なチェック: 「最近、誰々君とうまくやれてますか? 不満はないですか?」と、リーダー自らガス抜きを行います。たまに、新人PT君が休みの日に代行するのもリーダーの役目です。
- 信頼を落とさない: どんなに新人が未熟でも、「あの子は実力不足ですから」などと新人PT君を落とすような言葉を患者さんの前で言ってはいけません。それではチームの崩壊です。
結びに:リーダーが見るべき「サイン」
そして最も大切なことは、リーダーは新人君とその患者さんがリハビリしている様子を見ることです。新人君が患者さんの「体」ばかり見て、「表情」を見ていない。これは爆発寸前の危険サインです。 逆に、ぎこちなくても、会話をしながら一緒にゴールへ向かっているなら、それは「良質な経験」の真っ最中です。
リーダーの仕事は、この「相性の化学反応」を予見し、ボヤのうちに手を打つこと。 一朝一夕にはいきませんが、この方程式を頭に入れておくだけで、あなたの現場の風景は変わるはずです。
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