リーチ動作を変える視点:「足を見よ」

longing of touch 一般患者向け
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今日のテーマはリーチ動作です。リーチがうまくできない患者さんを前にしたとき、皆さんはどこを見ていますか?
多くのセラピストは「上肢の動き」に注目するかもしれません。しかし実際、リーチがスムーズでない時ほど確認してほしいのは“足”です。

手を遠くへ伸ばすという単純なように見える動作の背後には、足、膝、股関節、体幹、肩甲骨といった土台の協調が不可欠です。これらが安定しつつ動的に機能しなければ、どれほど上肢の努力を重ねても、到達動作は滑らかにはなりません。

もしリーチを「木の枝」とたとえるなら、幹にあたる部分が足と体幹、そして枝の根元を支えるジョイントは肩甲帯です。幹がたわんでいたり、根元がゆるんでいれば、枝がいくら伸びようとしても思うように動けない──それが臨床で起きていることです。

ですから、リーチ動作に問題があるときは、手先と同じように「土台」に着目する必要があります。今回は、どのようにそれを見て、評価し、介入までつなげていくかを順を追って整理してみましょう。


第一の視点:足部とベース・オブ・サポートを観察する

まずは足です。リーチ動作がうまくいかないとき、足部の働きを軽視してはいけません。
ベース・オブ・サポート(支持基底面)となる足が安定していなければ、そこに重心をのせて上半身をコントロールすることは不可能です。

最初に確認すべきは「つま先と膝の向きの一致」です。膝が内を向いているのに、つま先が外を向いていたり、足の親指側が浮いてしまっているような姿勢では、体重が正しく伝わらず、地面からの床反力もうまく得られません。

また、踵がねじれているケースも同様です。こうした不整合があると、足底全体で重心を受け止められず、骨盤は後傾、体幹は前屈ぎみになり、結果としてリーチは“届かない”という状態になります。

患者さんが座位にある状況を想定してみましょう。両足底が床にしっかり接していますでしょうか?浮いたり、どちらか一方に偏っていませんか?セラピストの観察と触診の両方が必要です。


第二の視点:足を軽く持ち上げて反応を探る

つぎに、患者さんの足をセラピストの手で軽く持ち上げてみます。
このとき、足が軽く持ち上がって、床から足底が離せるようでしょうか?それとも強く床を押しつけて抵抗するでしょうか?

軽く持ち上がらない足は、床に過剰な圧をかけています。足底を押しつけて支持しようとする動作が強いと、体は自然と骨盤後傾の方向に誘導され、体幹の屈曲を助長します。結果として、上肢はさらに前に出にくくなるのです。

逆に、軽く誘導したときにスッと足が持ち上がるようなら、不要な押しつけは少なく、下肢全体が協調して働けている可能性があります。


第三の視点:足関節と下腿三頭筋の協調を見る

次に注目するのは、足関節の動き、すなわち背屈と底屈のバランスです。
リーチ方向に重心が移動するとき、下腿三頭筋は遠心的に伸びつつ制動し、前脛骨筋が協調して背屈をコントロールしています。

そこでチェックしたいのが、踵が軽く浮くかどうか
もし踵が全く持ち上がらず、足底が床に張りついたままであれば、足関節周囲筋が硬く、可動性を失っている可能性があります。

筋の滑走を確認するために、セラピストが片手で足背を軽く押さえ、もう片方で腓腹筋やヒラメ筋を前後に動かしてみてください。筋腹が柔らかく長さ変化できるなら問題はありません。
しかし、固定的で全く伸張できない場合は、筋が十分に遠心性コントロールを発揮できず、結果としてリーチ方向への荷重も制限されることになります。


第四の視点:膝を前方に誘導して骨盤との連動性を見る

ここまで足部と下腿を確認したら、次は膝の動きです。
患者さんの膝を軽く前方(つま先方向)へ引き出してみましょう。
このとき、骨盤が自然に前方へ転がるように起き上がるかを観察します。

膝が前に出たときに、骨盤も共に前方へ誘導されるなら、下肢から骨盤への運動連鎖は保たれています。
しかし、骨盤がまったく動かない、あるいは後方へ張り付いたままのようであれば、股関節あるいは骨盤周囲の可動性に問題がある可能性があります。

足部・下腿・膝・股関節・骨盤。これらが順に連動して動くことこそ、リーチ動作の生理的な基盤です。末端の動きが順々に上位へ波及していく、この一連の過程を多関節運動連鎖(multi-joint kinetic chain)と呼びます。

運動連鎖とは、末梢の動きが中枢に伝わり、関節や筋活動が一体となって動作を遂行していくシステムです。リーチ動作においても、足部からの波及がなければ、上肢単体では「届く」動作を遂行できません。


第五の視点:骨盤の前後・側方運動を評価する

骨盤はリーチ動作の「舵取り役」です。
この部分の動きが制限されると、上半身全体の自由度が一気に下がります。

まずは骨盤を両手で後方から包み込み、前後に転がしてみましょう。
前方への転がり=前傾ができるか。後方への転がり=後傾ができるか。その可動範囲と質を確かめます。
これがスムーズであれば、体幹の屈曲・伸展は自然とリズミカルに連動していきます。

次に行うのは側方傾斜(ラテラルティルト)の確認です。
骨盤の片側を下げ、反対側を軽く持ち上げます。このとき横にスライドするのではなく、その場で回転するように傾けます。右への傾斜であれば、右側骨盤が下がり、その上に左骨盤が乗る感覚です。
これが両方向にしなやかに動けるかどうかが重要な観察ポイントです。

もし一方向にしか傾かないとしたら、その方向でしかリーチがしやすくない、つまり片側への動作制限が上肢機能にも影響している可能性があります。


第六の視点:脊柱の分節運動性を確かめる

骨盤の上に位置するのが脊柱です。
ここでもう一歩上位の動きを評価します。

胸郭を両手で保持し、骨盤をできるだけ安定させた状態で、胸椎や腰椎が独立して屈曲・伸展できるかを見ます。
脊柱が分節的に動かせるほど、体幹のコントロールは精緻になります。

脊柱は、頚椎7個・胸椎12個・腰椎5個・仙骨から構成されています。合計すると25前後の関節可動セグメントがあります。
これらがそれぞれ少しずつ動くことで、体幹全体としてのしなやかさが生まれます。

コルセットを使用している患者さんでは、これらの分節的な可動が制限されるため、寝返りや立ち上がり時に動作がぎこちなくなります。
同様に、リーチでも動きが途切れ、上肢の軌跡が無駄に弓なりになったり、タイミングがずれたりします。

分節的運動性を取り戻すことは、単に柔軟性を高めるだけではなく、「どの関節がどれだけ動いて、どこで安定させるか」を適切に分配できるようにする意味があります。


最後に:肩甲骨の自由を取り戻す

ここまでのすべて—足部、膝、股関節、骨盤、そして脊柱—の動きが整ってくると、自然と肩甲骨が自由になります。
肩甲骨は、幹と枝のつなぎ目のような存在。下から支える基盤が安定してこそ、その上で滑らかなリーチが可能になります。

肩甲骨の自由とは、単純な可動域のことではなく、「体幹・骨盤・下肢との協調性がある状態」を意味します。
結果として、上肢の到達範囲や巧緻性、さらには姿勢保持そのものが変わっていきます。


おわりに:PTが“リーチ”を見直す意味

リーチ動作を変えるには、手を直接操作するのではなく、全身の運動連鎖を捉えることが重要です。
PTが足や骨盤を治療することはあっても、手そのものを扱う経験は少ないかもしれません。
しかし、上肢に直接アプローチすることも含めて、リーチという動作を“全身運動”として捉え直すことが、今後の理学療法に求められる方向性ではないでしょうか。

リーチができない=足から見直す。この一見極端にも思える視点こそが、実は動作分析と治療の核心にあります。
今日からぜひ、患者さんのリーチ動作を足元からひとつずつ見直してみてください。
その一連の動きの中に、きっと新しい発見があるはずです。

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