第4章 仮説検証編:本質を見抜く“ひと手間”の思考法

question mark on chalk board 理学療法の進め方
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リハビリの現場では、患者様一人ひとりの動きを見て「何が問題なのか」を探ることが、改善への第一歩になります。しかし、観察だけでは見えてこない本質的な原因があります。今日は、その「観察の次」に行うべき重要なステップ―“仮説検証”についてお話しします。


正常から逸脱している「理由」を見つける

第3章で詳しく触れたように、私たちはまず詳細な観察からスタートします。
動作中の重心の移動パターンや軌跡、BOS(支持基底面)の使い方、COP(圧中心)の位置変化、関節のアライメント、可動域、筋活動のタイミングなど、あらゆる情報を拾い上げます。

この時点で「正常から何がズレているのか」は見えてきますが、「それが本当に動作不良の原因かどうか」はまだ分かりません。
ここで行うのが“分析”です。観察で見つけた複数の要素の中から、どれが最も本質的な問題なのかを仮説として立て、検証していくプロセスが必要なのです。


ひとつの仮説を立てて、環境を変えてみる

例えば、立ち上がり動作がうまくいかない患者様を想定します。足関節の背屈可動域が不足していると仮説を立てたとしましょう。この場合、椅子を少し高く設定し、足関節の背屈をあまり必要としない条件を作ります。または、踵の下に小さなタオルを差し込むことで背屈を補助してみます。

もしその環境変化によって、重心の移動やBOS、COPの軌跡などがスムーズに変化したなら、足関節可動域の制限が主要な問題として浮かび上がります。
逆に変化がなければ、別の要因―例えば筋活動や感覚障害、疼痛などの可能性を探るわけです。


感覚障害や筋活動への仮説を検証する

もし感覚障害を疑う場合、私たちは筋紡錘や腱紡錘など深部感覚の入力(proprioception)を高めるアプローチを試みます。具体的には、筋の長さを変えてみたり、筋収縮を促してみたりします。その結果、重心移動や姿勢制御に変化が現れれば、感覚入力が問題の一つと考えられます。

また、筋活動の不十分さが疑われる場合は、誘導や抵抗運動、姿勢設定を通して、筋の活動パターンを変化させてみます。
疼痛が関与している場合は、薬物療法や物理療法、ストレッチ、徒手療法などを使って痛みを一時的に軽減させ、動きがどう変わるかを確認します。

重要なのは、“何かひと手間を加えた時に動作がどう変化するか”を丁寧に観察することです。
この一連の流れが、まさに仮説検証の作業そのものです。


飛ばしてはいけない「検証」という作業

臨床現場では、観察の後すぐに治療へと移るケースが少なくありません。
もちろん早期介入も大切ですが、なぜそう動けないのかを深掘りせずに治療してしまうと、“根本的な変化”につながりにくいことがあります。

この仮説検証のプロセスを一手間かけて行うことで、

  • 動作不良の本質的な原因を見抜ける
  • 同じ症状でも、より短時間で効果的な治療につながる
  • セラピスト自身の観察力と臨床推論力が磨かれる
    といった大きなメリットがあります。そして本質の問題点に辿り着き、変化を与えることができた時の変化は、凄まじいものがあります。実際、涙を流す患者様もいらっしゃいます。

初めのうちは時間がかかるかもしれません。
しかし、この思考を習慣にすると、同じ現象を見ても「どこに介入すれば変化が起こるか」が直感的に分かるようになります。臨床スキルを磨くうえで、この繰り返しこそが最も重要なトレーニングなのです。


問題を明確にしたら、目標を立てる

検証の結果、主要な問題点が見えてきたら、次は目標設定です。
先に立てた仮説に基づき、方針を明確にして実践していきます。

可動域を広げる、筋の長さを整える、感覚入力を促す、疼痛を軽減する、心理的な不安定さに対応する――
その手段は徒手的誘導でも環境設定でも口頭指示でも構いません。大切なのは「目的と手段を一致させる」ことです。

1日で変化が出なくても焦る必要はありません。2日、3日とかけてやってみる。もし変化がなければ、次の仮説を試せばいいだけです。
この繰り返しの中で、治療戦略の幅が自然と広がっていきます。


学習には“時間差”がある

患者様一人ひとりの学習過程は千差万別です。
学生時代の体育の授業を思い出してみてください。同じ先生から同じ時間教わっても、すぐにできる人もいれば、1週間かけてようやくできる人もいました。運動学習も同じです。私たちセラピストは、焦らずに“待つ”ことを覚え、患者さんのペースを尊重する心のゆとりを持つことが大切です。


変化は「見える化」して共有する

治療効果を実感してもらうためには、変化を数値化して共有することを強くおすすめします。
例えば、

  • 更衣動作:服を渡してから着替え終えるまでにかかった時間
  • 立ち上がり時の不安感:VAS(ビジュアルアナログスケール)で主観評価
  • 歩行後の疲労感:ボルグスケールを使用
  • 重心動揺計や歩行分析機器:客観的に姿勢制御を可視化   など

こうした“見える指標”を使うことで、セラピストと患者の双方が変化をリアルに感じ取れます。
「自分は良くなっている」と患者自身が実感できた時、モチベーションが高まり、リハビリの学習効果もさらに上がります。


おわりに:本質を見抜くセラピストへ

仮説検証とは、単に動作を観察して当てはめる作業ではありません。
「動きを変えるために、どの要素を変えれば最も効果が出るか」を一つずつ確かめていく、地道で丁寧なプロセスです。

そして、この作業を繰り返すうちに、自分の“臨床眼”が研ぎ澄まされていくのを感じるはずです。

観察して、考えて、試して、また考える。
このループこそが、セラピストとしての成長そのもの。

今日から、あなたの臨床にも「ひと手間加える思考」を取り入れてみてください。
その一手間が、患者さんの未来を大きく変える第一歩になります。実践あるのみ、共に成長してエキスパートな理学療法士を目指しましょう。

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