「どうして自分の部署のスタッフは成長しないんだろう」、「部下が全然いうことを聞いてくれない」、と悩む中間管理職の方々。この悩みを抱える管理職は世界に何万人いるのでしょう。簡単な問題ではないと思います。簡単ではないからこそ、私が経験して得た結果を皆さんにお伝えして多少の助けになればと思い、今回の記事を書いてみました。多少時間はかかると思いますが、この記事を読んで実践していただければ少なからず現状は変わってくることは間違いありません。ぜひご覧ください。
相手のために本気で褒めて本気で注意する
褒めて育てるべきか、叱って育てるべきか、という議論をよく耳にします。子育てにおいても同じかもしれません。私はどちらも大切だと思いますし、土台になる信頼関係がなければどちらを選択したにせよ部下や子供の心には響きません。ではどうすれば部下と信頼関係が構築できるのか?から考えてみました。
以前ある書籍で学んだことで実践して確実に価値があったな、と思えることをお伝えします。たとえば朝、父親が子供にふと声をかけます。パターン1「最近、学校はどうだ?」、パターン2「最近、夜遅くまで勉強しているけど、調子はどうだ?」。どちらが信頼関係を高める事ができるでしょう。答えはパターン2になります。子供の立場に立ってみれば、漠然と社交辞令のように聞かれるパターン1よりも、パターン2の方が、普段の自分をよく見てくれていると感じますし、自分に興味を持ってくれている事が無意識に伝わります(子供に興味がない親はいないと思いますが)。しかし私もいまだによくありますが、普段私たちはパターン1の方をよく口にしてしまいがちです。
ではどうすればいいか。少し大変かもしれませんが、普段からよく観察しておくことしかありません。子供の行動、言動を些細なことでもキャッチしておく、そこから想像して会話を投げかけてみる。大層なことではなく、ふとした会話から感じたことで構いませんから、伝えてみることです。
これを職場に当てはめてみます。部下の普段の仕事や言動をよく観察しておきましょう。そして気になる事があれば、本気で褒め、本気で注意します。これは人材育成、マネジメントに関する講談家の鴨頭嘉人さんもおっしゃられていました。
後々分かった事ですが、観察をやり始めた当初私は部下に「見られている気がする」「評価されている気がする」と若干不快に思われていたそうです。しかし私は、「管理職なので、部下を管理することが仕事なのだから」、と思い継続していました。もしそれで注意ばかりしていたら部下は嫌になっていたでしょう。しかし観察している分、部下の頑張りやいい結果によく気付けたので、本気で褒めることが多くなりました。体感では褒めることと注意することは8:2くらいの割合に感じます。徐々に部下達もみられていることが気にならなくなったようです。当然、褒められることの方が多いわけですからみられていても嫌ではないし、むしろ今では「自分がこれだけやっている、もっと見てくれ」という眼差しも感じることがあります。そして良かったことは部下に問題があった場合に注意しやすくなったことです。どんな優秀な部下だとしても当然ミスはありますし、注意しなければならない場面は必ずありますが、普段からコミュニケーションが取れていて信頼関係があれば、その延長線上で注意することも非常にしやすくなります。関係性が悪くなることを心配して、言いたいことを伝え切れなかったり、逆に強く叱責し過ぎたりすることが減ると思います。ベタベタ仲良くするわけではなく、信頼関係があるということがお互いに仕事をどれだけしやすくなるか、身をもって感じる事ができました。
面倒な部下ほどよく話す
上司も部下も人間ですから、合う合わないは当然あります。ですが、なんとなく合わないというだけで会話を避けている部下はいませんか?
ちょうど2年前くらいのことです。病院開設から2年目の年度末、かなりの数のスタッフが退職してしまいました。私は全てのスタッフとコミュニケーションをとっていたつもりでしたので、とても落胆しました。理由はわからないし、どうすれば改善できるのか見当もつかず途方に暮れていた時、ある試みをしてみました。それは【1ヶ月間毎日、その日会話した人をチェックする】ことでした。その日少しでも会話をしたら、名簿の欄にチェックをするくらいの簡単な作業です。何それ?と思うかも知れませんが、1ヶ月後の結果は衝撃的でした。毎日会話する人、2、3日に1回話す人、1週間ほとんど話さない人がはっきりと分かれたのです。1週間話していませんから1ヶ月で見るとほんの数回の会話だけでした。また驚くことに、その1週間ほとんど話していない人に対して、私には「1週間全く話していない」という意識さえ無かったのです。つまり意識的に避けているわけでもなく、無意識に距離が遠くなっていることに気づきました(もしかしたら相手は意識的に避けていた可能性はありますが)。これでは信頼関係が生まれるはずもなく退職してしまうのも無理はありません。この気づきはとても大きいものでした。もしかしたら管理職で部下との関係性やマネジメントに悩んでいる方は、一度試してもいいかもしれません。意外と話していない人がいることに気がつくことでしょう。
そして、【1週間ほとんど話していない人】とのコミュニケーションをたくさんとってみてください。どんな内容でもいいと思います。もしかしたら初めはギクシャクしたりお互いに会話が続かないかもしれません。全ての人に当てはまるとは思いませんが、個人的には仕事におけるコミュニケーションは質より量が勝負だと思っています。量が足りていないだけ、ということも大いにあると思います。腹を括って上司から近づいてみましょう。きっといい結果が返ってくると思います。
部下のキャラに合った仕事をお願いする
私が非常に困っていた部下があることを境に変わった話をしたいと思います。その部下は、社会人3年目ですが、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)が全くできませんでした。挨拶も声が小さく、報告する時も必ず先輩の陰に隠れながら、自分は意見を述べずに側から聞いているだけという感じでした。仕事も休みがちでしたし、臨床に関してもほとんど相談がなく、患者様に対する介入内容も目に余るものがありました。私はその都度注意したり、時には強めに叱責することもありました。その時は少し落ち込んだ様子を見せるのですが、結局次の日からまた同じことの繰り返すです。その割には同期や後輩とは大声で元気に話していたり、後輩にはあれこれ口を出しているような場面をよく見かけました。そんな場面を見るたびに上司の立場の私はとても不愉快に感じていました。
何をすれば解決するのか分からない私は、やぶれかぶれで彼に新入職員や後輩の面倒を見てもらうことを依頼しました。最初は、どうせあまり力を入れないで適当にやるだろう、とそれほど期待もしていませんでしたが、もともと彼は同期や後輩とはよく話していましたということもあり、積極的に実践している場面をよく見かけるようになりました。私は、やっぱりそういうことが好きなんだな、という程度の感想でした。ここまではもしかしたらよくある話かもしれません。私がその後とても驚いたことは、彼がもともと苦手だったホウレンソウや臨床への向き合い方、相談の数など、当初私が彼に対して課題だと感じていたことまで改善していたのです。それはまるで別人になったかのようでした。
有名な著書に【人を動かす(Dカーネギー)】という本があるのですが、これは人間関係を作る上で非常に勉強になる本です。今回のこの出来事は、本で紹介されている【人を動かす3原則】のうち【重要感を持たせる】にあたるのかも知れません。その後の彼と私との関係性が良くなったのは、【人に好かれる6原則】の中の【関心のありかを見抜く】がたまたま当てはまったからかも知れません。偶然とはいえ、私にとってはまるでテコでも動かなかった大岩が取り除かれたような快感を得られたこと、そしてその経験が得られたことは大きな学びになりました。今後もきっと同じような場面に出くわすと思いますが、相手のせいにするだけでなく自分ができる手段を一つ増やす事ができたのですから、諦めずに対処できるのではないかと思います。
まとめ
医療従事者に限らず、中間管理職という立場は大変なのは身をもって感じております。しかし、自分の考え方や行動を変えることで結果は良くも悪くも必ず変わります。現状に対して困難に直面している方は、少しでも参考にしていただければ幸いです。