この記事は2026年1月31日デバッグ済みです
講習会は「知識の補充」でない。「OSの更新」だ
コロナ禍をきっかけに、リハビリの世界でも研修会や講習会が一時的にすっかり姿を消してしまいました。オンライン化が進み、自宅や職場から気軽に受けられるようになった反面、「なんだか物足りないな」「集中できないな」と感じた人も多かったのではないでしょうか。
最近になって、ようやく対面の講習会もまた少しずつ増えてきました。久しぶりに人と直接関わりながら学ぶ時間を持てるようになり、「やっぱり現場での学びは違うな」と改めて感じています。
ただ、職場のスタッフを見ていると、講習会に積極的に参加する人もいれば、特に興味を示さない人もいます。中には「参加してみたけど、あまり身にならなかった」「そもそも、どの講習会を選べばいいのかわからない」という声もよく耳にします。この気持ち、実はとてもよくわかります。私も若い頃は全く同じ気持ちでした。
でも、理学療法士として20年、たくさんの講習会に足を運んできた今思うことは、
講習会に参加する意味って、ただ新しい知識を得ることだけではない。ということ
私の中で今思う講習会に参加する意味は、大きく2つあります。
1.自分の「できる・できないの境界線」を知る
私たちは日々、目の前の患者さんと向き合いながら、自分の「わかること・できること」の範囲の中で仕事をしています。もちろんこれは仕事だけに限らないと思います。でも実は、その境界線って自分ではなかなか見えにくいものです。人は、自分の理解している範囲の中でしか物事を考えられないのが普通だからです。
講習会に行くと、その曖昧な境界線が少しずつ見えてきます。
講師の話を聞き、自分より経験のある人の技術を見て、「あ、自分はここが弱いな」「意外と理解してなかったな」と気づく瞬間があります。また隣で一緒に参加している受講生との意見交換などでも、自分と全く同じ意見を持つ人はいません。そこがとても大事なんです。
私は学びをいつも、次の5つの段階に分けて考えています。
- A: 初めて聞いた。知らなかった。
- B: 聞いたことがある(知っているレベル)。
- C: 実際にやってみている(試しているレベル)。
- D: 活用して結果を出している(できるレベル)。
- E: 言語化して人に伝えられている(教えられるレベル)。
多くの人が、「B=わかった」と思いがちです。でもこれはちょっとした落とし穴があります。
心理学ではこれを「ダニング=クルーガー効果」と呼びます。つまり、人は知識が増え始めた頃ほど自信を持ちやすく、実はまだ全体が見えていないのに「自分は理解できた」と錯覚してしまう傾向があるのです。
私自身、若い頃はこの状態に何度も陥りました。
講習会で習ったことを「なるほど」と思って帰り、数日後には「もう使える気がする」と思って現場に戻る。でも実際にやってみると、結果が出ない。患者さんに伝わらない。
「おかしいな、学んだはずなのに」と行き詰まる。
まさにそれが“境界線”です。
だからこそ講習会では、「わかった気にならない」ことがとても大切です。
講義のあと、自分がどの段階にいるかを一度冷静に棚卸ししてみましょう。
もしBレベルにいるなら、Cに上げるために何ができるかを考える。
次の日から早速試してみる。結果が出ないことに焦らず、それが当然だと考える。そんなにすぐ結果が出るくらいなら、誰でも講師や教授になれる、と考える。歳をとると結果が出ないことも楽しむことができますが、自分も若い頃にはそんな余裕はありませんでした。
講習会の価値は、その一歩にあると思います。
講習会デバッグ手順
➡️受講当日: B(知っている)からC(やってみた)への「橋渡し」だけを考える。
➡️翌日の臨床: 講習会の内容を全部やろうとしない(大抵上手くはいかない)。「たった一つだけ、昨日と違う動きを患者さんに試す」。これがCへの移行、つまり「脳内実装」の第一歩。
➡️一週間後: 結果が出なくてもいい。その「失敗ログ」を持って、資料を読み直す。もしくはデキる先輩に聞く。これがD(できる)への最短ルートだ。
しかし、ここで大抵の人が「結果が出ない」と言って放り投げてしまう。お金と時間をかけて講習会に出たのに結果が出ない現実を否定してしまうのだ。サンクコスト効果や確証バイアスがかかっているのである。上手くいかなくて当然、しかし講習会に行く前のあなたとは全く違った回路が脳内に通り始めている。OSと一緒で大幅なバージョンアップには時間がかかるもの。ここで感情的にならないことが大切。
サンクコスト効果・・・すでに投じた時間、金銭、労力が「もったいない」と感じ、将来の利益が見込めないのに撤退できず、不合理な投資を続けてしまう心理現象のこと
確証バイアス・・・自分が信じたいこと(=やってきたことは無駄ではなかった)を肯定する情報ばかりを集めて、そうではない情報(=無駄だったかもしれないという事実)を無視・軽視してしまう傾向のこと
2.アンテナの“周波数”を合わせる
もうひとつの大きな意味は、「アンテナを立て直す」ということ。
私は数年前にバイクの免許を取り、休日はツーリングを楽しむようになりました。
当時、免許を取るために教習所に通って、ネットでどのバイクを買おうか毎日調べていました。そんな日々を繰り返していくごとにあることに気づき始めました。普段車で運転していると、「こんなにバイクって道路を走っているんだ」と初めて気づきました。バイク人口が急に増えたわけじゃありません。
単に私の中に「バイク」というアンテナが立っただけだったんです。デジタル時計を見たとき自分の誕生日と同じ数字だったことが何度もあるでしょう?それも同じです。何百回とみている時刻の中で、脳にその数字のアンテナが立っているが故に、たまたま自分の誕生日や馴染みのある数字だけ記憶しているだけなのです。
この現象、心理学では「選択的注意」と呼ばれています。
つまり、自分が関心を持ったものに対して脳が敏感になるという働きです。
講習会に参加すると、このアンテナが新しく立ち始めます。
そして、周波数が一度合ってしまえば、これまでは「ただの景色」だった文献や本、SNSが自分に必要な「解決策」として自動でソート(整理)されるようになります。つまり「学ぶ」ということは、世界を検索しやすくするための「タグ付け」作業なのです。
「よくわからない」が一番の学び
講習会が終わったあとに、「今日はすごく勉強になった!」「すっきりした!」と思うこともあります。
でも実は、講習会後に「なんだかモヤモヤする」「よくわからなかった」と感じるほうが、より大きな学びにつながることが多いんです。
モヤモヤしているということ。それは脳というハードディスクに大容量の未知のデータが書き込まれている最終のプログレスバーです。そこで思考を止めず、「なぜ自分はこれをエラー(違和感)だと感じたのか?」を深掘りします。その「未解決のバグ」こそが、数年後に他の知識とリンクしたとき、君だけの独自技術になるのです。
私はこれまで何度も「時間とお金の無駄だったかな」と思った講習会が、何年も経ってからふとした瞬間にピタッと他の知識とつながり、自分の武器になった経験をしてきました。
学びって、すぐに芽が出るものばかりじゃありません。数年後に咲くことだって、たくさんあります。
終わりに:選ぶ基準は「アノマリー(違和感)」でいい
リハビリの現場は、常に人と向き合い、進化し続ける世界です。
その中で、自分の成長を止めてしまう最大の理由は、「自分の今のやり方で十分だ」と思ってしまうことだと思います。
講習会は、そんな“自分の枠”を優しく、時に鋭く揺らしてくれる場所。
新しい刺激に出会うことで、気づきやすくなり、見える世界が少し変わります。
「どの講習会を選べばいいか分からない」と迷うのは正解を求めているからです。むしろ、「自分の今のやり方では説明がつかない(=違和感がある)」テーマを選んでみてください。 正面から壁を叩く必要はありません。新しい知識という「脇道」を通ってみることで、気づけば壁の向こう側に立っている自分に出会えるはずです。
「わからなかった」も「モヤモヤした」も、全部成長のサイン。
そうやって少しずつ、自分の中の世界を広げていくことが、きっと未来のあなたを助けてくれるはずです。
明日からあなたは患者さんに対して、どの【1行】を試しますか?Enjoy your mistake!
本日のまとめ
| ステップ | 状態 | アクション(明日やること) |
| 当日 | B:知っている | 資料に「明日試す1項目」を赤ペンで書く |
| 翌日 | C:試している | 成功・失敗を問わず、患者さんに**【1行】**だけ実践する |
| 1週間後 | D:できる | 溜まった「失敗ログ」を手に、資料を読み直す |
| 数年後 | E:教える | 過去の「モヤモヤ」が繋がり、自分の武器になる |
■ 「学びのバグ」を防ぐ3つのマインドセット
- 「結果が出ない」のは仕様: OSの大型アップデートには再起動と時間がかかる。
- 「モヤモヤ」は進行中: 脳がデータを書き込み中の「プログレスバー」と心得る。
- 「無駄」はタグ付け: すぐ使えなくても、数年後の自分への「検索用タグ」になる。
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