第3章 動作観察の深掘り─「なぜ」うまくいかないのかを見極める

full frame shot of architectural structure 理学療法の進め方
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前回、動作分析の基本である「どのフェーズで動作がうまくいかないのか」という点について整理しました。今回はその次のステップ─つまり「なぜそのフェーズでつまずいてしまうのか」を掘り下げていきます。若手セラピストが臨床で最も迷いやすいのが、この“原因を見つける”段階です。そこで、観察の際に注目してほしい4つの視点を紹介します。


まず最初に見るべきは重心です。重心は動作の効率や安定性の根幹を担う要素です。
一般的に重心が高い位置を通ると動きは不安定になりますが、運動は効率的になります。逆に重心が下がれば安定性は増しても、動きは制限され、運動効率は低下します。

特に患者さんは、筋力低下や感覚障害などによる不安定さ(心理面も含めて)から、意識的・無意識的に重心を低く保つ傾向があります。確かに安全策としては自然な反応ですが、動作の自由度という観点から見ると、これは「制約」にもなりえます。
セラピストとして目指したいのは、「重心を意図的に上下に動かしても不安定にならない身体の獲得」です。無理に高く持ち上げるのではなく、自然に自由に重心をコントロールできるよう誘導していきましょう。

観察の際は、どのタイミングで重心が下がってしまうかどこに移動しきれていないかといったポイントに注目します。視覚的観察だけでなく、軽く手で誘導してみると、動きの抵抗や不安定性の感覚からより多くの情報が得られます。

【コラム】同じ立位姿勢でも重心の位置が違う?

面白い実験があります。自分と同じくらい体重の人に立位をとってもらい、息を大きく吸って頭の先から天井に向かって紐で吊るされているイメージを持つように伝えてください。軽く全身に力を入れてもらってもいいです。次に、後ろからその人の腰あたりを抱き締めるように抱えてその人を上に持ち上げてみてください。簡単に持ち上がります。

次は相手の人に、足の裏から地面に根っこが生えることをイメージしてもらい、全身の力を脱力してもらってください。その後同じように後ろから持ち上げてみてください。どうでしょう。体重は変わらないはずなのに、全く持ち上げることができなくなりませんか。同じ立位でも全身の筋活動、イメージだけで重心の位置が変わるのです。例えば同じ20kgのものでも、縦に細長いもの(重心の位置が高いもの)と低い位置にある横長のものでは持ち上げやすさが全く違いますよね。ぜひ身近な人と実験してみてください。


次に見るべきは支持基底面(BOS)と圧中心(COP)です。
私たちは重力下に生きている以上、身体を支えるベースとなる「接地面」の情報を常に利用しながらバランスをとっています。
例えば、座位では臀部・大腿後面・足底が主な支持基底面にあたります。重要なのは、患者さんがこの面全体をバランスよく使えているかどうかです。

多くの人は、無意識のうちに支持基底面の一部分しか使えていません。これは健常者でもよく見られる現象です。ですから、患者さんに限らず、セラピスト自身の身体感覚としても「自身が今、どの面を積極的に使っているか」を意識してみると理解が深まります。

自分のBOSを簡単にわかる実験を紹介します。背もたれなしで平らな面に腰掛けてください。次に誰かに両肩を左右から軽く抑えてもらいましょう。その状態のまま肩を左右に動かさずに片方ずつお尻を浮かせてみましょう。上げやすい方、上げにくい方がはっきりと分かれませんでしたか?例えば右のお尻が上げられない人は、逆の左のお尻がBOSになりにくいということになります。健常者でも普段から身体を捻りながら使いやすい場所で動いているのです。ぜひ確かめてみましょう。

支持基底面を広く使えるほど、重心は自由に動けるようになります。したがって、臨床ではBOSをどこまで広げて使えているかを丁寧に確認しましょう。圧中心(COP)は、BOSの中で最も荷重が集中している点を指します。つまり、その人が「最も積極的に使っている部分」でもあります。BOSとCOPの関係を理解することで、身体の使い方や荷重の偏りが明確になります。


3つ目は、関節アライメントと可動域です。
これは学生のころから観察に慣れている要素ですが、ここで大切なのは「局所」だけでなく「全体のライン」で捉えることです。
たとえば座位の矢状面では、大転子・肩峰・耳垂が一直線上に並ぶことが理想的な重力ラインといえます。前額面であれば、おへそ・剣状突起・顎・鼻・眉間が一直線に並ぶような姿勢ですね。

このアライメントが整っている状態は、骨格的に最も効率の良いポジションです。筋活動を最小限に抑えられるため、余計な固定が入らず、身体の自由度が高まります。
結果として、前後・左右への重心移動がスムーズになり、感覚入力も豊かになります。単に可動域をチェックするだけではなく、「全身の重力ラインがどのように整っているか」に目を向けてみてください。


最後に、筋活動の観察です。
セラピストはしばしば「どの筋が求心性に働いているか」に注目しがちですが、実際の動作は求心性と遠心性の拮抗・協調関係で成り立っています。

例えば、立ち上がるとき膝が伸展する場面で考えてみましょう。
大腿四頭筋の遠位部は求心性収縮をしますが、同時にハムストリングスの遠位部が遠心性に働くことで、膝の伸展スピードを制御しています。もしハムストリングスの遠心性活動が欠けると、膝は急激に過剰に伸展してしまいます(運動失調の患者様や不全脊髄損傷の方によくみられる現象です)。
私たちが自然に安定して立ち上がれるのは、この絶妙な筋活動のバランスによるものです。

したがって、動作の問題を観察する際には、「求心性に働く筋」だけでなく、その裏で遠心性に働く拮抗筋群にも目を向ける必要があります。
たとえば反張膝の患者さんを評価する場合、四頭筋だけでなく、ハムストリングス、下腿三頭筋と前脛骨筋、大殿筋と腸腰筋など、関係する複数の筋ペアを総合的に評価することが重要です。
どれか一つでも適切に働いていなければ、動作全体に不具合が生じます。


ここまで紹介した4つの視点──

  1. 重心の移動
  2. 支持基底面と圧中心
  3. 関節アライメント
  4. 筋活動のバランス

これらは脳血管障害だけでなく、運動器疾患、神経変性疾患、脊髄損傷など、あらゆる疾患に共通する観察の枠組みです。
動作が「できない」理由を理解するには、局所的な筋力や関節可動域だけでなく、全体の力学的・感覚的なつながりに目を向けることが欠かせません。

重心、支持基底面、アライメント、筋活動。この4つのバランスを意識して観察を積み重ねていくと、患者さんの身体の「何が、どうして、どのように」動かないのかが見えてきます。
これがわかれば、次にどんな介入を行えばよいかという方針も、自然と導き出せるようになるでしょう。


臨床現場では、つい評価や測定結果に頼りがちですが、動作そのものを「観察する力」を磨くことが、セラピストとしての成長の鍵です。明日からの臨床で、ぜひこの4つの観察視点を意識してみてください。

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